最重要表現は「為替市場で対応する」

まずは、実際に円安阻止介入が行われた2022年のケースで検証してみよう。円安の動きを憂慮するとして、財務省、日銀、金融庁の三者会合が共同声明を発表したのは2022年6月10日のことだった。

その主な内容は、「政府・日本銀行は、緊密に連携しつつ、為替市場の動向やその経済・物価等への影響を、一層の緊張感を持って注視していく」というものだった。ただ、実際に円安阻止のための米ドル売り・円買い介入が行われたのは、それから3ヶ月以上も後の2022年9月22日。つまり、この当時為替介入については全く決定されていなかったと考えられる。

為替市場に介入することを実際に決めたのは、2022年9月8日に開かれた三者会合の頃と考えられる。この会合後、神田財務官は記者会見で以下のように語った。「あらゆる措置を排除せず為替市場で必要な対応を取る準備がある」。

この「神田発言」と、3ヶ月前の三者会合声明を比較すると、「あらゆる措置を排除せず」、「為替市場で必要な対応を取る」といった表現は、「神田発言」でほぼ初めて使われたものだったことが分かる。特に、「為替市場で必要な対応を取る」という表現は、素直に読むと、まさに為替介入の意味になるだろう。

2022年介入時との発言の比較

要するに、この2022年9月8日までに、円安阻止で為替市場に介入することが決まったと考えられる。実際の介入が実現したのは2022年9月22日と、10日以上も後だったが、これは、9月8日の水準を大きく超えて米ドル高・円安になったのが9月22日だったからというのが一番の理由と考えられる(図表参照)。逆に言うと、「為替市場で必要な対応を取る」と介入決定を示唆した場合は、それより米ドル高・円安になったらすぐに介入が実行される可能性もあるということではないか。

【図表】米ドル/円と為替介入の関係(2022年9~12月)
出所:マネックストレーダーFX

この2022年9月8日の「神田発言」についてのある報道では、「為替介入については言及しなかった」との解説をつけていた。そうではなくて、「為替市場で必要な対応を取る」との表現こそが、為替介入を行うことの示唆と理解する必要があるのではないか。

なお、為替介入について決定した場合、「為替市場で必要な対応を取る」といった表現を使うことは、G7(7ヶ国財務相会議)共同声明などでも共通ルールになっているようだ。例えば、協調介入で合意した場合は、「口約束」とせずに声明で確認するといった目的があるのではないか。

以上を踏まえ、最近の通貨当局の発言として、2023年9月6日の神田財務官の発言、「政府としてはあらゆる選択肢を排除せずに適切に対応していきたい」について検証してみよう。「あらゆる選択肢を排除せず」とは、為替介入も検討しているとの意味だろう。その後に続いたのが、「適切に対応する」というもので、具体的に「為替市場で対応する」など為替介入を意味する表現は使われていないものの、かなり為替介入を実行する段階に近付いている可能性があるのではないか。