利下げ実現前の金利との関係
利上げから利下げに転換する局面では、市場金利が政策変更を先取りすることで、最近のように政策金利を米2年債利回りなどの短中期金利が下回るのは普通だった。1998年以降の米利下げへの転換局面は主に4回あったが、全て米2年債利回りは、実際に利下げが行われる前にFFレートを大きく下回った。
特に、2001年と2007年のケースでは、利下げが行われる前までに、米2年債利回りはFFレートの誘導目標上限を1%以上と大きく下回った(図表1、2参照)。その意味では、最近にかけての動きも、特殊なものではなさそうだ。
ちなみに、2001年と2007年は、米2年債利回りがFFレート誘導目標上限を1%以上継続的に下回るようになると、それから1ヶ月程度の早期に利下げが実現した。その意味では、現在のFFレート誘導目標上限の5%を米2年債利回りが1%以上下回る4%以下での推移が継続的に実現するかは、早期利下げが現実になるかどうかの1つの目安になるかもしれない。
利下げ実現前の株価との関係
次は、利下げと株価(NYダウ)の関係について見てみよう。上述のように、1998年以降で米利下げへ転換したのは主に4回あったが、このうち2回の利下げは株安開始後であり、残りの2回は利下げ後に株安が始まっていた(図表3参照)。
株安開始後に利下げ開始となったのは、1998年9月と2001年1月だったが、株価のピークに対して前者は2ヶ月後、後者は1年後の利下げ開始となった。景気の先行指標と位置付けられる株価の下落が始まって利下げに転換するのは分かりやすいが、それにしてもなぜ1998年と2001年では利下げ開始まで大きな差が出たのか。
それは株安の程度の差があったのではないか。1998年の場合、利下げが始まる前に、NYダウは高値から2割も下落していたが、2001年に利下げを始める前のNYダウの高値からの下落率は2割未満にとどまっていた。ちなみに、この頃は、ITバブル崩壊局面と位置付けられており、ナスダック総合指数は利下げ開始前までに約5割もの下落となっていたが、「上がり過ぎ」の反動として、こちらの株暴落は利下げに転換する根拠にはならなかったようだ。
一方で、株安が始まる前に利下げへ転換したのは、2007年と2019年だ。ただ、2007年は利下げ開始が9月で、NYダウのピークが10月だったので、利下げ開始と株安の始まりはほぼ同じ頃だった。
株価と利下げとの関係で特殊と位置付けられそうなのは、2019年からの利下げ局面だろう。この時は、NYダウのピークより約7ヶ月先行する形で利下げに転換した。株高が続いていたのは、米国内では景気回復が続いていたためだが、にもかかわらず利下げへ転換したのは、当時のトランプ政権における米中貿易摩擦の激化が景気の先行きに悪影響をもたらしかねないことへの「予防的利下げ」と説明された。
以上を整理してみよう。米利下げ開始の目安は、米2年債利回りとの関係からすると、継続的にFFレート誘導目標上限を1%以上下回る、つまり今回の場合なら米2年債利回りが4%以下での推移が定着するかどうかということ。そして株価との関係では、NYダウが高値から2割以上大幅に下落することが目安になるのではないか。
NYダウは、2022年1月に記録したこの間の高値からは一時2割の下落となったが、それはインフレ対策の利上げを受けたもので、景気の先行き悪化の織り込みとは異なると考えられる(図表4参照)。むしろ最近は底固い展開が続いており、この株価が景気悪化を先取りして大幅下落に向かうかどうかが、利下げへの転換のもう1つの目安になるのではないか。