以前に「国が引き起こした景気後退の中では、暗号資産が金融インフラの代替として注目されることはないだろう」と書いた(2月13日付、『暗号資産と景気後退』)。しかし、2023年3月に入り、米国の銀行が相次いで破綻したことで状況が変わりつつある。欧州においても大手銀行クレディ・スイスの経営状況が悪化し、同じく大手銀行UBSによる買収によって救済される事態となった。日本の地銀も他人事ではない、そんな声が聞こえる。

このように金融システムへの信用不安が世界的に広がる中、ビットコインは強い値動きとなっている。暗号資産関連企業と取引のある銀行が揃って破綻し、業界全体への懸念から一時は大きく売り込まれたが、米国政府による預金者保護が発表されると他のアセットを凌ぐ早さで急回復した。上昇時には金との相関が強まり、一部ではビットコインがデジタルゴールドとして買われていることが示唆された。

暗号資産を知らない人は「一体なぜ?」と疑問に思うだろうが、ビットコインの歴史を振り返ればその理由がはっきりする。

ビットコインは世界的な金融危機を引き起こしたリーマン・ショック事件の直後となる2008年10月に誕生した。正確には2009年に入ってから発行がスタートしたが、いわゆる中央集権的な金融システムへの不安が広がった時にビットコインは世に出てきた。まさしく今のように銀行セクターの信用が低下する中で、個人同士が自由に取引できる電子通貨システムが作られたのである。

ビットコインはこれまでも金融危機のタイミングで注目されてきた。2013年に欧州の小国キプロスを巡る金融危機が起きた時も、金融システムが停止する中でビットコインが逃避資産として買われた。2020年に新型コロナウイルスが発生した時も、世界経済が不安定になる中でビットコインは金とともに買われた。そして2023年に米国の新興銀行が立て続けに破綻した時も、ビットコインは同様に買われている。

シリコンバレー銀行等の破綻劇はリーマン・ショックほどの影響は出ないとの見方が多い。しかし、今回の景気後退を起こしうる要素として銀行セクターの信用低下が加わったことはビットコインが再び注目を集めるチャンスかもしれない。