銀行は潰さない。少なくとも預金者の預金は全額保護する。いわゆるペイオフ(正しい英語かどうかは不明ですが、日本では、銀行が破綻する時に、その預金保険額を超えた部分の預金額は保護されず、破綻の程度に応じて部分しか預金者に戻ってこないような破綻処理方法を指します)は行わない。これらは、日本が銀行の不良債権問題に直面した今から20年ちょっと前に導入した、一連の手法・考え方です。
このやり方は当時、世界から多くの批判を受けました。日本のやり方は too big, too fail、即ち大きすぎると潰せないだけだ。モラル・ハザードが起きる。最終的にコストが高く付く、云々。後にノーベル経済学賞を取ったクルーグマン教授などは、その批判の急先鋒でした。しかし時は巡り、その10年後くらいに起きたGFC(世界金融危機。日本ではリーマン・ショックと呼ばれる)では、正に日本が取った手法をアメリカも取らざるを得ず、クルーグマン教授も日本に対して謝罪することになったのでした。
時はまた巡り、今回、アメリカでシリコンバレーバンクの経営破綻が突然に起きました。預金はいつでも引き出せますが、それの見合いで投資していた債券が、満期の長いものだったり、或いはモーゲージ債券で(これもデュレーションと云われる満期に近い概念のものが長いです)あり、預金の引き出しに応じて運用債券を取り崩したら、昨今の急速な金利引き上げの影響を受けて、満期まで持っていたら元本が返ってきたものの、途中売却なので実現損が出て、その情報が更に預金者の引き出しを招き、あっという間に破綻してしまいました。
パウエル連銀議長は、かつて政府の違う所にいた時には、ペイオフはすべきである、即ち預金者の全額保護はしないべきだと主張していたという情報もこの週末に流れたので、かなりの不安が漂いましたが、結局今回もアメリカ政府は、20年前に日本が取った手法を、同様に取ることになりました。預金は全て守る。銀行破綻は、預金を保護しないと実体経済に与える影響が甚大なので、最終的にこのような形になるのは、止むを得ないと思います。しかし常に預金を全額保護するのであれば、米連邦預金保険公社や日本の預金保険機構のような仕組みは、意味がないとは云いませんが、意味合いや定義を変えるべきだと思います。
いずれにしても、素早く資金移動を出来るようなサービスの充実が、極めて短い時間での大量の預金の移動を可能にし、あっという間に銀行破綻を招いた訳で、様々な資本充実や開示ルールの改善をする必要があると思われると同時に、エコシステムを維持するのに適切なサービス水準とは如何なるものか?という考えも、今後慎重に吟味していく必要がありそうですね。