米金融政策への見方が大きく揺れた1週間

先週の米ドル/円は、米金融政策への見方が大きく振れた影響を受ける結果となりました。まずは、3月7日に行われたパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の議会証言を受けて、3月FOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げ幅が0.5%に拡大するとの観測が浮上。米金利が上昇すると、それに連れる形で米ドル/円もこの間の米ドル高値を更新し、138円寸前まで上昇しました。ただ、週末にかけて米銀・シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻をきっかけに、一転して年内の利下げ観測が再燃。米金利が大きく低下したことから、一時は134円割れ寸前まで米ドル急落となりました。

このように米金融政策への見方が大きく揺れた中で乱高下した米ドル/円の動きは、米金融政策を反映する米2年債利回りと基本的には連動しました(図表1参照)。その意味では、134円割れへさらに米ドルが下落するかは、米2年債利回りが一段と低下するかが1つの目安となるでしょう。

【図表1】米ドル/円と米2年債利回り(2023年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米2年債利回りは10日、4.5%台まで低下し、政策金利であるFFレートの誘導目標上限の4.75%を下回りました(図表2参照)。これは、FFレートの引き下げ、つまり利下げを織り込む動きということになります。

【図表2】米2年債とFFレート(2018年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

ただ、先週行われたパウエルFRB議長の議会証言では、インフレ是正の鈍化などを受けて、利上げ見通しの上方修正が示唆されました。今週(3月13日週)は、CPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)といった米インフレ指標の発表が予定されています。FRBがインフレ対策としての利上げ姿勢を強化する判断が変わらない結果となるかが、まずは注目されるところとなりそうです。

もう1つ、上述の米銀SVBの経営破綻をきっかけに浮上した金融システム不安の行方も気になります。今のところ、一段と金融システム不安が拡大に向かうという見方は少ないようですが、米金利は年内の利下げを改めて織り込むところまで大きく低下となりました。

以上を整理すると、米インフレ対策の利上げ姿勢を大きく変える必要があるほどに金融システム不安が拡大に向かうかどうかが、米金利が一段と低下し、米ドルが134円を大きく割れて続落するかの目安でしょう。私は、今のところその可能性は低いと考えています。そうであれば、ここから先の「米金利低下=米ドル下落」には限界があるのではないかと思います。

米ドル高・円安は終わったのか?

そうは言っても、先週末の米ドル急落は、2月からの米ドル高・円安局面における米ドルの安値と安値で引いたトレンドラインを大きく割り込む動きとなりました(図表3参照)。このようなプライス・アクションは、2月からの米ドル高・円安は、先週の138円手前までのところで一段落した可能性が高いことを示しているでしょう。

【図表3】米ドル/円の日足チャート(2023年1月~)
出所:マネックストレーダーFX

そもそも米ドル/円は、2023年初めに130円を大きく割れるまで急落したことで、120日MA(移動平均線)を大きく下回りましたが、これは米ドル安・円高トレンドが始まった可能性を示すものでした。そうであれば、トレンドと逆行した最近までの米ドル高・円安はあくまで一時的な動きと考えられます。

経験的には、一時的な米ドル高・円安は、120日MA前後までがせいぜい。そんな120日MAは、足元で138円程度なので、今回138円の手前で米ドル高・円安が一巡し、その後の米ドル反落で上述のようにこの間の米ドル高・円安を支えたトレンドラインを割れてきたことからすると、一時的な米ドル高・円安はすでに終了した可能性も意識する必要はあるでしょう(図表4参照)。

【図表4】米ドル/円と120日MA(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2月からの米ドル高・円安は、短期的な米ドル「下がり過ぎ」の反動という面もあったでしょう。米ドル/円の90日MAかい離率は、1月に米ドルが130円を大きく割り込んだところでマイナス10%近くまで拡大し、短期的な「下がり過ぎ」懸念の強いことを示していました。

そんな90日MAかい離率は、一時138円近くまで米ドル高・円安に戻したところで、僅かながらプラスに転換するところとなりました(図表5参照)。要するに、90日MAとの関係で見ると、米ドルの短期的な「下がり過ぎ」は是正されたわけです。

【図表5】米ドル/円の90日MAかい離率 (2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米ドルの「下がり過ぎ」修正の手掛かりになったのが米金利の上昇でした。その米金利上昇が一巡し、米金利低下が再燃したことで、改めて米ドル安・円高リスクが注目されるようになったということでしょう。ただし、90日MAとの関係からすると、さらなる米ドル下落は、「下がり過ぎ」を拡大することになるので、すでに見てきたように米金利が一段と低下するといったことなどがなければ、自ずと限られるのではないでしょうか。

以上を踏まえると、今週の米ドル/円の予想レンジは、米ドルの反発も下落もともに限られるといったイメージから、133~137円で想定したいと思います。