日銀の政策見直しと金利、為替の関係

先週の米ドル/円は、1月18日の日銀金融政策決定会合で、前回に続き10年債利回りの許容上限が拡大され円金利が一段と上昇するとの思惑から、週初は127円台前半まで米ドル安・円高が進みました(図表1参照)。ただ、日銀が10年債利回りの許容上限を再拡大しなかったことから円金利が大きく低下。それに連れる形で米ドル/円も一時は131円まで米ドル高・円安へ戻すところとなりました(図表2参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート (2022年10月~)
出所:マネックストレーダーFX
【図表2】日10年債利回りの推移(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

このように、今回の会合で日本の10年債利回りの許容上限再拡大は行われませんでしたが、3月の次回会合以降で行われるとの見方はなお残っており、それを手掛かりにその後改めて127円台まで米ドル安・円高に戻す場面もありました。

ただ日本の10年債利回りは、日銀会合以降は基本的に低下傾向が続いたことから、為替相場と円金利の関係は一時かい離が目立つところとなりました(図表3参照)。これは、為替相場の円高が、日銀の政策の見直しとそれに伴う円金利上昇に対して過剰反応となっている可能性を示しているのではないでしょうか。

【図表3】米ドル/円と日10年債利回りの推移(2022年10月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

先進国の10年債利回りには、値動きの連動性が高いという特徴があります。これは、グローバリーゼーションの時代にあり、「世界一の経済大国」である米国の10年債利回りに他の先進国の10年債利回りも連動しやすくなっていることが基本と考えられます(図表4参照)。

【図表4】米独の10年債利回りの推移(2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

こうした中で日米の10年債利回りも、日銀が2022年3月に10年債利回りの上限を0.25%に設定するまでは概ね連動していました。2022年12月の会合で、日銀がこの許容上限を0.5%に拡大すると、日本の10年債利回りはあっという間に、新たな上限である0.5%まで急騰となりました。しかし、これはそもそも日銀が10年債利回り上昇を抑制する政策をとらなかった場合、米10年債利回り上昇に連れる形で日本の10年債利回りも上昇していた可能性が高く、そんな日本の10年債利回りの上昇余地を試す動きの始まりということだったのではないでしょうか(図表5参照)。

【図表5】日米の10年債利回りの推移(2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

日銀が2022年3月に、10年債利回りの許容上限を設定する以前の日米の10年債利回りの関係を前提にすると、日銀が10年債利回りの上昇を抑制しなかった場合、日本の10年債利回りは0.9%程度まで上昇していたかもしれません。その意味では、日銀が現在の0.5%から10年債利回りの許容上限を再拡大、または10年債利回りに上限を設定するYCC(イールドカーブ・コントロール)政策を止めた場合、日本の10年債利回りは確かに一段と上昇する可能性はあるでしょう。

ただ、日本の10年債利回りは米10年債利回りに連動する傾向があり、その米10年債利回りは米景気減速見通しが広がる中で低下傾向となっていました。日銀が2022年3月に10年債利回りの上限を0.25%に設定する以前までの米10年債利回りとの関係を前提にすると、このところの米10年債利回りの低下を受けて、日本の10年債利回りはYCCの10年債利回り上昇抑制策を撤廃しても、足元では0.7%程度までの上昇がせいぜいではないかと思われます。

そもそも最近の米10年債利回りは、米景気減速観測から低下することが増えています。そのため日本の10年債利回りもそれに連れ、日銀による10年債利回りの上限拡大が3月の次回会合までないとなると、それまでに現行の上限である0.5%を大きく超えるかは可能性としては低いのではないでしょうか。以上のことから、日本の金利が当面大きく上昇しないようなら、金利差との関係からも米ドル安・円高が一段と広がるとは考えにくいと思います(図表6参照)。

【図表6】米ドル/円と日米10年債利回り差(2022年10月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米ドル高・円安へ戻る可能性

米ドル/円の90日MA(移動平均線)かい離率が一時マイナス10%近くまで拡大し、経験的には短期的な米ドル安・円高の「行き過ぎ」懸念が強くなっていました(図表7参照)。この観点からも、目先的にはさらなる米ドル安・円高は限られ、むしろ「行き過ぎ」の反動により米ドル高・円安へ戻る可能性がありそうです。

【図表7】米ドル/円の90日MAかい離率(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

当面はレンジの中で一進一退

米ドル/円は、2022年11月以降一段安となりましたが、これには一定のパターンがありました。10~15営業日程度約5円のレンジでのもみ合いが続いた後にレンジを米ドルが下放れるといったパターンです。このパターンが今後も続くようなら、当面は127.5~132.5円中心のレンジで一進一退となり、2月1日のFOMC(米連邦公開市場委員会)といった注目イベントを手掛かりにレンジ・ブレークに向かうシナリオが基本になりそうです。