急激に円安方向へ向かった2022年の米ドル/円相場
2022年、米ドル/円相場は年初の115円台から10月の151円台まで36円も円安方向に動きました。
日本が金融緩和政策を維持する中、米国は高インフレを抑え込むために急ピッチで利上げを行っているため、「日米金利差拡大」が米ドル/円上昇の主要因とされています。しかし、貿易赤字の拡大、経常収支の赤字転落など、実需による為替が円安をもたらした側面もあります。
日本と海外とのモノやサービス、投資収益のやりとりなど、経済取引で生じる収支が急速に悪化しており、日本は構造的に円安の国に転換してしまったとの指摘も聞こえてきます。
貿易赤字だけではない!?経常収支も赤字転落
10月、日本の経常収支は641億円の赤字に転落しました。東日本大震災以降、原子力発電が停止したため、エネルギー自給率が低い日本は海外から原油やガスなどを輸入しなくてはならないことから、恒常的な「貿易赤字」国に転落しています。このことが円安の一端にあることは広く周知されつつありますが、経常収支まで赤字に転落した背景には何が隠れているのでしょうか?
経常収支は、貿易収支とサービス収支、所得収支で構成
経常収支は、「貿易収支 + サービス収支 + 第一次所得収支 + 第二次所得収支」で構成されます。2022年度上期(4~9月)の日本の経常収支は4兆8458億円の黒字でしたが、前年同期から58.6%も減少しています。
1.貿易収支:▲9兆2334億円の赤字(前年同期比▲10兆1246億円赤字転化)
~原油などの輸入額が自動車などモノの輸出額を上回り赤字拡大。
2.サービス収支:▲3兆1639億円の赤字(前年同期比▲5560億円赤字幅拡大)
~「その他サービス収支」が赤字幅を拡大した
3.第一次所得収支:18兆2332億円(前年同期比+3兆6740億円の黒字幅拡大)
~「直接投資収益」が黒字幅を拡大したこと等から過去最大の黒字
4.第二次所得収支:▲9901億円(前年同月比 +1439億円で赤字幅縮小)
~官民の無償資金協力、寄付、贈与の受払などの赤字が縮小
DX推進でサービス収支の赤字が膨らむ
ここで注目されるのがサービス収支です。上半期は3兆1639億円の赤字で、赤字幅は2割も拡大しています。
サービス収支とは「運賃、旅行、保険料、情報、特許等使用料などサービスの受取り、支払の収支」のことを指します。
この中の旅行収支は、訪日外国人の日本での消費(外国人による円買いが発生)から、日本人旅行者の海外での消費(海外旅行の際米ドル買いが発生)を差し引いたものです。外国人旅行客が日本国内で消費を増やせば、日本が海外から得る「収入」が増えるわけですが、2014年以前は日本人が海外で消費する金額のほうが大きかったため、旅行収支は赤字が続いていました。
2015年以降はアベノミクス、日銀の異次元緩和により円安が進行したことで、海外から日本国内への旅行者が増え、旅行収支は黒字に転換しています。しかし、コロナ禍の中で日本の規制は厳しく、旅行収支の黒字は縮小しています。この先、海外からの観光客が増えてくれば、黒字拡大への期待も高まるのですが、まだ訪日客の戻りは鈍いままです。
特筆したいのが、サービス収支における「情報、特許等使用料など、サービスの受取り、支払の収支」です。日本は官民あげてDXに取り組んでいますが、これが赤字を拡大させています。
例えば、民間企業における基幹システムをクラウド上で提供するPaaS型サービスの利用は、AmazonWebService(AWS)やMicrosoft Azure(アジュール)などの米国企業との契約が多くみられています。
日本のデジタル庁も2021年10月、行政システムのクラウド化に使うサービスについて、AWSとグーグルの2社を選んだことを明らかにしており、こうしたサービス利用料の累積が日本のサービス収支の赤字拡大につながっていると考えられるのです。
日本がDX推進を強化すればするほど、米国に支払う米ドルが膨らんでいくということです。逆にいうと、日本企業にこうしたIT関連サービスの輸出が少ないということでもあります。貿易赤字に加えて、年々膨らんでいくサービス収支の赤字で、日本はかつてのような巨額の経常黒字国ではなくなっており、これが米ドル/円相場を押し上げる一因となのでしょう。今後、日米金利差が縮小すれば、円安ドル高の揺り戻しはあろうかと思われます。それでも100円台へと下がっていく、かつてのような円高局面の到来はないのではないかと考えられます。