2022年4月の高校学習指導要領改訂により、金融経済教育の内容が拡充されました。そこでマネックス証券の投資教育部門であるマネックス・ユニバーシティでは、現役の中学生、高校生の皆さんから、お金にまつわる素朴な疑問・質問を募集し、それに答えることで、お金のことをわかりやすく解説する連載を始めます。題して『世界を知る大人になるための本気の「お金」授業』

マネックス証券が本当に伝えたいお金のこと、世界のこと…、親子で一緒に読んでほしい本音トークを繰り広げます。

第1回目は高校3年生・よしくんから届いた質問「世界を知るために、金融の勉強は必要ですかに、マネックス証券会長の松本大がわかりやすく、大胆に回答します。

金融の世界で働けば、毎日のように経済ドラマに遭遇できる

私が金融に興味を持つようになったのは、自主留年して大学5年生になったとき。将来どんな仕事に就くのか?そのときまで全くノーアイデアでしたが、ふと「どんな会社に就職してもそこで何が起こるかなんてわからない。でも、地震ならばいつか起こるかもしれない」と思いました。

それなら地震のような災害が起こった後に必要になる都市整備や中長期で都市の再開発に携わるような仕事に就けば、やりがいがあるのではないか、と考えたのです。具体的に言うと、不動産会社や建設会社といった業界ですね。ただ「いや待てよ、地震が起こるのは100年後かもしれないし、また都市の再開発には数年、場合によっては10数年やそれ以上かかる場合があるかも」と感じました。

 

私は昔から、せっかちな性格です。そのため長期的なスパンでの充実感よりも日々常にやりがいを感じたり、ワクワク感を感じていたい。さて、どうしようか。そんなとき頭に浮かんだのが、「金融なるものがあるらしい」ということでした。どんな業界にも景気の波はあるけれど、金融ならいろいろな企業や国の波を上からでも下からでも横からでも見て、同時にとらえることもできると思ったのです。

普通に生きていると、なかなか事件には遭遇しませんが、新聞の事件記者をしていれば、毎日が事件の連続。同じように、金融の世界に行けば、毎日「経済ドラマ」を見られるのではないか。「よし、これだ」と思ったのが金融の仕事に就くきっかけになりました。正直なところ、当時はお金や金融への興味はゼロに近かったのですが、最終的に「金融」というジャンルに辿り着いたというわけです。

カタールへ行かなくても投資信託から世界を身近に

さて、よしくんの質問にある「世界を知る」にはどうしたらいいでしょうか?今なら英語でTwitterを読むのが早そうですが、流れてくる情報をただ読んでいても、きっと訳がわからないはず。やはり「世界の何に関心があるのか?」という自分自身の興味がすべての起点になります。そんなとき、“超お手軽”に世界を知る手がかりを与えてくれるのが金融です。

例えば、「2022FIFAワールドカップ」開催国のカタールに興味がわいて、中東のことを知りたくなったとします。実際にカタールへ行ってみるのもいいけれど少し大変。中東に関する本を片っ端から読んでみるとしても、どんな本から読めばいいか最初はわからないですよね。それよりもっと簡単に中東に近づけるのが、中東の国々を投資対象としている「投資信託」に興味をもってみることです。

 

投資信託とは、たくさんの人からお金を預かるファンドマネジャーが、良いと思ったいくつかの企業の株を買って、1つの商品にしたもの。投資信託は100円から買うことができて、価格はさまざまな理由で毎日変化します。「どうして値段が動くのだろう?」と調べてみると、ある有望なテクノロジーの発見があったり、戦争が起因となっていたり、世の中の物価が上がってインフレと呼ばれる現象が起きていたり、さまざまな理由が見えてきます。

中東の国々を投資対象としている投資信託の値動きから、実際に起きている世界のさまざまな動きをリアルに感じることができるのです。遠くまで出かける必要がなく、お腹も減らず、汗もかかない。インターネット上でできるのだから、すごくお手軽だと思いませんか。

1万円の「情報玉」を作れば未来予測も楽しめる

ゲームの世界で「育成ゲーム」というジャンルがありますが、金融の面白さはそれに近いものがあって、箱庭を作るとか、水槽の中に世界を作る感覚に似ています。

よく占い師が、未来のことを予言しようとしますね。100円分の投資信託を100本買って日々の値動きを観察すれば、占い師の水晶玉のようなものよりもはるかに情報量が多い「情報玉」をたった1万円からつくることができます。とても少ないコストや労力で、簡単に世界中で起こっているさまざまな動きを観察したり、未来がこうなるんじゃないかと予測したりできる。それを楽しいと思えることが、世界を知ることにもつながるはずです。

100円でも1,000円でも実際に自分で何かに投資してみて、初めてわかることも多いものです。投資をして利益が出たり損失が発生すると、金融商品の値動きに自然と興味がわいてくるでしょう。その値動きから「ああ、今、世界はこんなふうに動いているんだ」と感じられるようになれるのが、金融の魅力です。

もし1億円あったら?何に使いたいかみんなで自主練習を

最後に、中高生のみなさんにお伝えしたいのは、お金は使い方が一番大切だということ。できれば授業等で、1万円あったら何に使うか、100万円、1,000万円、1億円あったらどう使うか、みんなで考えてみるのをおすすめします。

 

どれだけ金額が増えても「ラーメンを100杯食べる」と答える人がいるかもしれません。でも、中にはきっと100万円あったら1万円を寄付するという人も出てくるでしょう。そうすると、「寄付? 何それ? どこに?」と話し合いが起こります。1,000万円あったら「起業したい」という人もいるでしょう。「起業って何? どうやって? 何を?」と意見交換しているうちに、「あっ、そういうお金の使い方ってあるんだ」とわかってくる。

いざ大人になって、実際にお金を使う前の自主練習のようなことができると思います。そんなみなさんがいずれ社会に出て、企業の資金や国の税金を使うようになったら、今より良い使い方ができて、社会にもきっといい効果をもたらすはずです。

収入と幸福度には相関関係があるという研究があって、年収が約800万円までは年収の増え方と幸福度は1対1で比例して上がっていくといわれています。しかし、800万円を超えると、必ずしも、年収に比例して幸福度が上がっていかない、という研究結果です。

なぜそうなるのか?お金が人々の幸福度を高めるのは、あれを買いたい、これを食べたいといった使い道がちゃんとある場合です。その金額を超えてしまうと、使い方がわからないから、お金がたくさんあっても幸福度が上がらないのではないか、というのが私の仮説です。

つまり、10代の頃からお金の使い方をしっかり考えておけば、より幸福にお金を使うことができるはずです。それは資産運用も同じ。単に増やすだけじゃなくて、増やしたお金をこういうことに使う、という目的があったほうがいい。その目的を考える意味でも、これから大人になる10代のみなさんこそ、ぜひ「大きなお金があったらこういうことに使いたい」と思い切り議論してみてください。

写真:竹井 俊晴