米ドル売りの主役はポジション調整か
先週の米ドル/円は、米ドル買いが先行し、142円台まで上昇しました。しかし23日(水)以降は138円割れ寸前まで米ドル反落となりました(図表1参照)。これは、23日に公表された11月FOMC(米連邦公開市場委員会)議事録で、利上げペースの減速の可能性が再確認されたことがきっかけとの説明が多かったようですが、果たしてそうなのでしょうか。
FOMC議事録公表後も、米金融政策を反映する米2年債利回りの低下は限定的にとどまりました。142円から一気に138円割れ寸前まで米ドル急落となった動きは、米金利低下での説明を超えたものだったでしょう(図表2参照)。
そもそも12月FOMCで利上げ幅が縮小するとしても、それはこれまでの0.75%から0.5%になるということですから、米国の政策金利であるFFレートの誘導目標上限は現行の4%から4.5%に引き上げられる見通しとなります(図表3参照)。そうであれば、足元4.5%程度で推移している米2年債利回りの低下が限られるのは当然でしょう。
では、米利上げ幅の縮小観測でも、米金利低下が限られた中で、なぜ米ドル/円は138円割れ近くまで大きく下落したのでしょうか。それは、米ドル買いポジションを手仕舞うことに伴う米ドル売りの影響が大きいのではないでしょうか。
ヘッジファンドなどの取引を反映しているとされるCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションを見ると、11月に入ってから円の売り越し(米ドル買い越し)の縮小が続いています(図表4参照)。要するに、米ドル買い・円売りポジションの手仕舞いが続いていると見られます。
10月にかけて、1990年以来32年ぶりに150円を超えるなど記録的な米ドル高・円安が展開した中で、米ドル買い・円売りは、大きな利益を出した2022年の代表的な取引と見られました。その中では、米ドル買い・円売りのポジションが膨大に膨らんだと考えられます。
そうした米ドル買い・円売りポジションは、11月に入り米ドル安・円高に大きく動いたことで、さらに米ドル安・円高に動く前にポジションを手仕舞う動きが拡大している可能性が考えられます。
先週、米ドル/円が142円以上で上値が重くなったのも、その後FOMC議事録発表などをきっかけに米金利低下で説明できる以上に米ドル下落が大きくなったのも、そのような米ドル買いポジション手仕舞いに伴う米ドル売りの影響が大きいのではないでしょうか。
120日MA攻防という米ドル下値の正念場
今週木曜日から12月に入ります。1日はISM(米供給管理協会)製造業景気指数、そして2日には米11月雇用統計など、注目の景気指標発表が予定されています。この中で、特にISM製造業景気指数は、好況と不況の境目とされる50を割り込むと予想されており、米金利低下、米ドル売りのきっかけになる可能性に要注意でしょう。
米ドル買いポジションを手仕舞うことに伴う米ドル売りはまだ続いていると見られます。そのことから、米景気指標悪化といった米ドル売り材料には過敏な反応となる可能性があり、その意味では米ドルは下値波乱含みと言えそうです。
チャートを見ても、米ドルは下値の正念場にありそうです。米ドル/円は2021年1月の102円から米ドルの上昇トレンドが展開してきましたが、その中では基本的に120日MA(移動平均線)にサポートされてきました。その120日MAが、足元では140円丁度ですので、先週はまさに120日MAにサポートされてきた米ドル高・円安トレンドの転換を試す動きだったと言えそうです(図表5参照)。
ここまで米ドル高・円安トレンドが展開する中では、米ドルが120日MA前後まで下落した動きは「ダマシ」であり、結果的には米ドル買いが奏功してきました。一方で、足元で140円丁度の120日MAを大きく米ドルが下回るようなら、それはこれまで米ドル高・円安トレンドが続いた中では見られなかったことだけに、既に米ドル高・円安トレンドは終わり、米ドル安・円高トレンドへ転換している可能性が高まります。そうすると、米ドル下落余地が広がる可能性もあるでしょう。
個人的には、米利上げが続く中での米ドル安・円高には自ずと限界があると考えているため、120日MAの140円以下の米ドル安・円高は「ダマシ」に終わるのではないかと考えていますが、綱渡りの状況が続くことになりそうです。
以上を踏まえ、今週の米ドル/円の予想レンジは、10月米PPI(生産者物価指数)発表後に付けたこの間の米ドル安値を割れないとの考え方から、137.5~141.5円中心で想定したいと思います。