「CPI後」と「PPI後」が違った理由

先週の米ドル/円は、11月15日に発表された米10月PPI(生産者物価指数)が予想を下回ったことをきっかけにこの間の米ドル安値を更新、137円台まで急落しました。ただすぐに米ドルは反発に転じ、その後は140円前後での一進一退となりました。

米ドル/円は、11月10日の米10月CPI(消費者物価指数)発表をきっかけに大きく下落に転じました。ところがPPIの場合は、発表直後こそ米ドル急落となったわけですが、すぐに米ドル反発となりました。このように、CPIとPPIで、発表後の米ドル安の動きには大きな差が出ました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート (2022年8月~)
出所:マネックストレーダーFX

これは、CPI発表後は、それまで約20日間145~150円中心で方向感の乏しい展開が続いていたところから、145円割れで米ドルが保合いを下放れたことで勢い付いたテクニカル要因の影響が大きかったことを再確認したのではないでしょうか。別な言い方をすると、CPI発表後の米ドル急落は、CPIの結果以上に、テクニカル要因などから増幅された可能性があったということです(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と米2年債利回り(2022年3月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

また、先週米ドルが比較的底固い展開となったのは、CPI、PPIがともに対前年同月比上昇率が予想を下回ったものの、FOMC(米連邦公開市場委員会)のインフレ対策の利上げ姿勢には大きな変化がないことが確認された影響も大きかったでしょう。

例えば、11月17日には複数のFOMCメンバーの発言がありましたが、その中でセントルイス連銀のブラード総裁は、「ターミナル・レート(政策金利の最終到達水準)は最低でも5~5.25%」との見方を示しました。また、比較的「ハト派」とされるミネアポリス連銀のカシュカリ総裁も、「利上げ終了を提案するような状況にはなっていない」と述べました。

図表2のように、米ドル/円と米2年債利回りのこれまでの関係からすると、米ドルの140円割れは、金融政策を反映する米2年債利回りが4%を大きく下回るまで低下したことを織り込んだ動きと言えるでしょう。言い換えれば、米ドルの140円割れは、現行4%のFFレートの引き下げを織り込む動きということです。

以上のことから、CPI発表後の米ドル急落は、テクニカル要因などから増幅された過剰反応の可能性が高く、FOMCの利上げ見通しに変わりないことが確認されたことにより、今後は米金利との関係からすると米ドル「下がり過ぎ」と見られる分の修正で、米ドル高・円安へ戻す可能性もあるのではないでしょうか。

米ドル買いポジション手仕舞いの米ドル売り

ただ先週の段階では、米ドルは結局141円すら超えられず、上値の重さも目立つところとなりました。これは、年末にかけてポジション調整の米ドル売りが続いている影響が大きかったのではないでしょうか。

これまで記録的なペースで米ドル高・円安が展開したことから、米ドル買いのポジションが大量に残っている可能性が考えられます。その米ドル買いのポジションを保有している投資家からすると、米ドルが大きく下がる前に売りたいと考えるでしょう。

これは、CPI発表後に米ドル下落を加速させた一因だった可能性があります。それとともに、先週も米ドル反発が鈍いと見ると、そういった米ドル買いポジションの手仕舞い売りが入って米ドルの上値を重くした可能性はあるでしょう。

CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションを見ると、円の売り越し(米ドル買い越し)は、10月末の10万枚程度がこの間のピークで、先週は6万枚台となったため、ピークから3割以上も縮小となりました(図表3参照)。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション (2020年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

一方で、CPI、PPI発表後もFOMCの利上げ姿勢は基本的に変わらず、このため12月FOMCでも0.5%の利上げが予想され、さらに年明け以降も5%以上へ一段とFFレートは引き上げられるとの見方が強まっています。こうしたことから、米2年債利回りも、一時4.3%台まで低下したものの、再び4.5%まで反発、さらに上昇する可能性も出てきました(図表4参照)。

【図表4】FFレートと米2年債利回り (2018年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

そうした米金利上昇を手掛かりとした米ドル買いが、ポジション調整の米ドル売りとの綱引きの中で、どこまで米ドル高・円安へ戻すことができるかが、当面の焦点ではないでしょうか。

今週は、11月23日が日本の祝日、そして24日は米国が感謝祭で休場となるなど、週の半ば以降は商いが薄くなる可能性が考えられます。そうした中で、米ドル/円は138.5~142.5円中心のレンジで、米ドル高・円安への戻り余地を探る展開を予想したいと思います。