11月10日発表された10月の米国のCPI(消費者物価指数)が市場予想を下回ったことをきっかけに、株価急騰、金利低下、ドル高の巻き戻しが一気に起きた。市場では「逆CPIショック」とも呼ばれている。それから1週間が経過し、市場は落ち着きを取り戻している。当然の動きだろう。相場はStop and Goを繰り返すものだ。次の大きなムーブメントに向けて力を貯めている局面だ。次の大波のきっかけになり得るのは12月2日の米国雇用統計、そして12月13、14日のFOMCだ。ちなみに次回11月のCPIの発表は12月13日である。まさに来月半ばには今年最大にして最後のビッグイベントがやってくる。それまでの間は幕間つなぎの相場になると思われるが、その間、しっかりファンダメンタルズをチェックして来る相場の大波に備えたい。

CPIほど注目されなかったが、続いて発表された米国のPPIも市場予想を下回った。米国のインフレはピークアウトが鮮明になりつつある、という認識が固まっていくだろう。

CPI(消費者物価指数)【青】とPPI(生産者物価指数)【白】
出所:Bloomberg

インフレの要因である供給制約もかなり解消されてきた。代表例が海運市況。コンテナ価格は急低下、コロナ前の水準に接近している。

The World Container Index(コンポジット)
出所:Bloomberg

商品市況もピークアウトが鮮明になっている。グラフは総合的な商品から構成されるCRB指数の推移である。

CRB指数
出所:Bloomberg

特に産業用金属の価格調整が進んでいる。グラフはS&P GSCIのIndustrial Metals Indexの推移。

S&P GSCIのIndustrial Metals Index
出所:Bloomberg

コロナ禍~ウクライナ危機を経て、ざっくり300から600へと倍に跳ね上がったが、その後400まで調整した。こうした金属価格や海上輸送コストの低下を考えれば、今年度上期の一部の企業で見られた円安効果を相殺するほどの原材料コストの上昇は、今後、改善されてくるだろう。

一方、バッドニュースは米国景気が一段と減速を強めている点だ。フィラデルフィア連銀が昨日発表した11月の第3連邦準備地区の製造業景況指数は、総合でマイナス19.4となり、前月のマイナス8.7から低下した(左軸)。フィラデルフィア連銀景況指数はISM製造業景気指数の先行指数とされる。グラフは両者を重ねたもの。フィリー(フィラデルフィア連銀景況指数)の急低下を考えれば次回発表されるISM景気指数は好不況の境目とされる50を割ってくるだろう。それを受けた米国長期金利の反応に注目したい。

ISM製造業景況指数(青)とフィラデルフィア連銀景況指数(白)
出所:Bloomberg

米国10年債利回りは3.7%台まで低下してきた。そもそも市場のインフレ期待はこの数カ月、ずっと安定、もしくは若干低下気味で推移してきた(グラフ赤線=ブレークイーブン・インフレ率)ことを考えれば、名目の10年債利回り上昇をもたらしたものは、[1]FEDのスタンスのタカ派化、[2]欧州金利の上昇であろう。

米国10年債利回り
出所:Bloomberg

その欧州の状況もかなり落ち着いてきた。一時、大きく売られたイタリアの10年債利回りも4%を下回る。

イタリア10年債利回り
出所:Bloomberg

財政を巡る混乱が一時ほどひどくなくなっていることに加え、エネルギー危機の懸念が薄らいでいることが背景にある。欧州は今年の冬は相当厳しいと見られていたが、実際は暖冬だ。それを反映してか、天然ガスの価格はウクライナ危機前に近づくほど下落している。

オランダTTF先物1ヶ月
出所:Bloomberg

[1]のFEDのスタンスについても、FRB副議長のブレ―ナード氏がブルームバーグのイベントで、「恐らく利上げペース減速への移行が近く適切になるだろう」と発言するなど、タカ派の修正が見られる。

こうしたことから市場が見込む次回FOMCでの利上げ幅は0.50%との予想が8割を占める。1ヶ月前は、0.75%が3分の2で、0.50%の予想は3分の1しかなかったことからは大きく変化した。

次回FOMCでの利上げ幅予想
出所:Fed Watch Tool

おそらく利上げ幅はサプライズにならないだろう。問題はFEDが示す来年以降の経済見通しである。今年最大にして最後のビッグイベントまであとひと月足らず。もろもろ準備をしよう。