「FEDスポークスマン」という存在
FOMC(米連邦公開市場委員会)は11月2日、金融政策について発表する。事前の予想では4回連続の0.75%といった大幅な利上げが決定されるとの見方が有力だ。ただ、それとともに次回、12月FOMCでの利上げ幅の縮小も議論すると見られている。
これは、非公式にFRB(米連邦準備制度理事会)の意向をマーケットに伝達する「FEDスポークスマン」と位置付けられてきたWSJ(ウォールストリート・ジャーナル)紙のFRB担当記者の記事の影響が大きいだろう。
この伝統的な「FEDスポークスマン」のポジションを引き継いだのはニック・ティミラオス記者と見られている。同記者が、10月21日付けの記事で、「11月FOMCで0.75%の利上げ、12月FOMCで0.5%への利上げ幅縮小を議論する公算が大きい」との見方を示したことから、上述のように、米利上げについて、11月0.75%、12月0.5%といった見方が基本になった。
FRBは金融政策の見通しについて、マーケットとのかい離が気になる場合、「サプライズ」でマーケットに混乱が起こることを回避しようとする。とくに金融政策を決めるFOMC前に関係者の発言が禁止される「ブラックアウト期間」では、マーケットの認識のズレを緩和する目的で、「FEDスポークスマン」の情報発信を活用することがある。
最近における、その代表例は6月FOMC前のことだろう。6月FOMCは15日に予定されており、それまでの見方では前回と同様に0.5%の利上げ予想が基本だった。ところが、10日に発表された5月米CPI(消費者物価指数)は、前年同月比で8.6%の上昇となり事前予想の8.3%の上昇を大きく上回った。予想以上のインフレ率の上昇などを受け、FRBはマーケットが想定している以上の利上げに踏み切る可能性が出てきた。かといって、FOMC直前のタイミングで、関係者からの情報発信はすでに出来なくなっていた。
こうした中で、ティミラオス記者は6月13日付けの記事で「ここ数日、厄介なインフレ報告が相次いでいることから、FRBは今週の会合で、予想を上回る0.75%の利上げを実施し、市場を驚かせることを検討することになりそう」との見方を示した。
これはまさに、FOMC直前のタイミングにおいて、FRBがこれまでマーケットに示唆していた利上げシナリオの修正を余儀なくされたため「FEDスポークスマン」を活用することで、「サプライズ」に伴う混乱の鎮静化を目指した典型例と見られた。
以上のような記憶もあることから、10月21日の「FEDスポークスマン」の記事は、FRBの考え方を代弁したものと考えられてきている。しかしそれは、未だインフレの是正に目立った進捗が見られず、米景気についても急激な悪化の兆候を得るには至っていない中では、客観的にみて若干の違和感がある。
それでも、次回12月会合以降で利上げ幅を縮小する見通しになるなら、未だ一般的には認知されていないが、FRBには見えていることを根拠とした判断ということなのかもしれない。