米利上げ見通しの下方修正と介入戦略

先週の米ドル/円は、ついに150円の大台も突破、その勢いで一時は152円近くまで米ドル一段高となりました。ただここで、「FED(米連邦準備制度)スポークスマン」とも呼ばれる米ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)記者の報道などをきっかけに米利上げ見通しを下方修正する見方が広がり、米金利も低下しました。こういった中で、日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入が行われたと見られ、米ドル/円は一時146円台まで急落となりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の4時間足チャート (2022年10月13日~)
出所:マネックストレーダーFX

先週10月21日(金)の米ドル/円を巡る動きには、重要なポイントが主に2つあったと思います。1つは米利上げ見通しの下方修正。そしてもう1つは、日本の通貨当局による為替介入の戦略です。

まず、米利上げについては、11月FOMC(米連邦公開市場委員会)で1%、12月FOMCで0.75%の利上げが行われることで、現行3.25%の政策金利FFレート(上限)は、年末までに最高で5%に達するとの見通しとなっていました。ところが、上述のWSJ報道などにより、11月0.75%、12月0.5%の利上げで、年末のFFレート(上限)は4.5%程度までの引き上げにとどまる可能性が出てきたのです。

米金融政策を反映する米2年債利回りは、一時4.5%を大きく上回り、その上で年末までにFFレートが5%まで引き上げられるようなら一段と上昇しそうな動きとなっていましたが、このWSJ報道などを受けて大きく低下しました(図表2参照)。

【図表2】FFレートと米2年債利回り(2018年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

重要なのは、そんな米2年債利回りは、米ドル/円と高い相関関係が続いてきたということです。FFレートの年内の最終到達点(ターミナルレート)が5%なら、米2年債利回りと米ドル/円のこれまでの関係から考えると、米ドル高・円安は155円程度まで一段と進む見通しになります。ただ、FFレートの年内ターミナルレートが4.5%なら、米ドル高・円安は150円程度にとどまるといった見通しになります(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と米2年債利回り(2022年3月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

このように米利上げ見通しが下方修正され、米2年債利回りが大きく低下する中で、日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入があったと見られ、米ドル/円は一時146円台まで急落となりました。

9月22日に行われた日本の米ドル売り介入では、145円台から140円台までの米ドル急落となりましたが、その後は150円を超えるまで一段と米ドル高・円安が進んだことから介入効果を疑問視する声が強まっていました。

ただ、図表3でも確認できるように、米ドル/円は米金利と高い相関関係が続いてきたので、その関係が変わらない限りは、米金利上昇が続く中での米ドル売り介入の効果には自ずと限度があるということでしょう。一方で、米金利が低下した場合は、それに連れて米ドルが下落することから、米ドル売り介入も効果が大きくなる可能性があるでしょう。10月21日の米ドル売り介入は、まさに米金利が低下したタイミングを意識的に狙って動いたことから米ドル急落につながったということではないでしょうか。

米ドル陽線も9週連続で一段落

以上、先週10月21日(金)の米ドルが急反落に転じた背景について見てきましたが、きっかけは米利上げ見通しの下方修正と米ドル売り介入ということで良いでしょう。ただそもそも米金利も米ドルも短期的に「上がり過ぎ」気味になっており、その修正により米金利低下、米ドル反落が起こりやすくなっていたということもあったのではないでしょうか。

米金利がこの間大きく上昇したのは、利上げ見通しに反応しただけでなく、最近の英国債急落(利回り急騰)に連れたことで、実態以上の動きになっていた可能性がありました。また、米ドル/円の日足チャートは、10月20日(木)まで何と12営業日連続の米ドル陽線となるなど、さすがにいつ米ドル高が一息つき、米ドル安に転じてもおかしくない状況になっていました。こうした状況だったからこそ、米利上げ見通しの下方修正や米ドル売り介入に、「米金利急低下=米ドル急落」といった具合に大きく反応する結果になったのではないでしょうか。

これを受けて、米ドル/円は週足チャートでも米ドル陽線が9週連続したところで一段落となりました。これまでも、米ドル陽線の長い連続記録が一段落した後は、2~3週米ドル陰線が続きました(図表4参照)。これを参考にすると、今週も米ドルは続落、米ドル陰線となる可能性が注目されます。

【図表4】米ドル/円の週足チャート (2022年1月~)
出所:マネックストレーダーFX

その一方で、米ドルがここから大きく下がるかと言えばそれも疑問です。既に見てきたように、米国の政策金利のFFレート(上限)は、11月FOMCで4%以上に引き上げられる見通しとなっているわけですから、その意味では米2年債利回りも4%を割れる可能性は当面は考えにくいでしょう。そうであれば、それと連動する米ドル/円も145円を大きく割り込む可能性は低いのではないでしょうか。

以上を踏まえると、今週の米ドル/円は145.5~150.5円のレンジでの展開を予想したいと思います。