訪日客の水際対策を緩和、経済再開の動き
10月11日から、日本政府がインバウンド(訪日外国人)の入国の際に実施していた水際対策を緩和、また国内では「Go To トラベル」に代わる「全国旅行支援」を開始した。
日本の経済再開(リ・オープン)の動きがいよいよ本格化する見通しになっている。これまで、経済再開と新型コロナウイルス感染拡大による行動規制の繰り返しだっただけに、“今度こそ”との期待が高まっている。
インバウンドでは入国者と帰国者全員に義務付けていた海外出国前の72時間以内の陰性証明書について、新型コロナウイルスのワクチンを3回接種していることを条件に不要としている。また、1日当たり5万人に設けられていた入国者数の上限も、10月11日から撤廃されている。
さらにネックとなっていた、訪日客に義務付けられている短期滞在ビザ(査証)の取得免除や個人旅行の受け入れも解禁。実質的にコロナ禍前の水準に戻っている。
観光庁によれば、新型コロナ発生直前の2019年の訪日外国人旅行者数は3,188万人。これが2020年には412万人、2021年には25万人まで激減している。日本が事実上の鎖国政策を取ったことが要因だ。そのため、“全面解禁”なら急速な回復が期待される。
円安がインバウンド消費の追い風となるか
訪日外国人にとって、さらに追い風になるのは円安だ。コロナ禍前の2019年年末は1ドル108円前後だったが、現在は149円91銭程度(10月20日11時時点)。2019年に比べて37%の円安水準だ。
これは2019年当時に比べ、同じ金額を購入すれば37%多くのものが買え、同じものを買うには37%安で購入できることを意味する。海外に比べてインフレの度合いも低い。
訪日外国人にとって、日本は円安で「バーゲンセール」のような状態になっているため、インバウンドの回復が想定以上になることも想定される。岸田首相は訪日外国人の年間消費額として5兆円超の達成を目指すことを明らかにしている。
また、日本政府は2030年の訪日外国観光客数の目標を6,000万人(この時点での訪日外国人旅行消費額15兆円)としている。株式市場では主力株を軸に電鉄や航空企業、ホテル関連株などが継続的に物色されているが、ここではインバウンドに関連する中小型株をピックアップしてみた。
1.アドベンチャー(6030)
国内航空券が主力のオンライン旅行会社。実店舗を持たないため、営業社員が不要。利用者は24時間、いつでも好きな時に航空券の検索や予約ができる。同社では取扱商品を国内航空券の他、国内ツアーや海外航空券、LCC(格安航空会社)、アクティビティ(レジャー)に拡大させて、顧客の利便性を高めている。
主力サイトは国内外の格安航空券、ツアーなどを比較、予約可能な「skyticket(スカイチケット)」。この他、海外のツアーやアクティビティを予約できる「WannaTrip(ワンナトリップ)」も展開する。
スカイチケットはアプリのダウンロード数が前期末時点で1,800万ダウンロードを突破した。ユーザーの6割強は年齢が30代以下と若年層に強みがある。
同社は、日本初のグローバルOTA(オンライン・トラベル・エージェント)を目指している。2020年に日本の旅行市場におけるオンライン比率は44%なのに対し、米国では68%と市場拡大の余地が大きい。
また、米国など海外では大手のOTAが数多く存在する。まずはアジアでシェアを拡大するために韓国支社を設立し、今後はインドやバングラデシュにも設立する予定。
スカイチケットは海外顧客の増加を背景に、42ヶ国語に対応している。節約思考のユーザーをターゲットに低価格商品にフォーカスし、アクティビティなどの横断検索により予約全てを一気通貫で可能にしている。中長期的には世界需要の取り込みが期待される。
2.ソースネクスト(4344)
子会社のポケトークが10月12日に、AI通訳ソフトの新製品として「ポケトーク同時通訳」を2022年冬に提供を開始すると発表している。
これまでも字幕を使った翻訳機を手掛けているが、新製品は音声と字幕の両方によりリアルタイムで理解できるソフト。音声でも発話するため、まるで専属の同時通訳者がいるように相手の話が分かるという。インバウンド客の増加で、引き合いが活発化する可能性が高い。
3.ティーケーピー(3479)
貸会議室やアパホテルのフランチャイズなどを展開。コロナ禍で苦戦も、業績は改善傾向へ。2023年2月期の第2四半期決算では、売上高256億5,500万円(前年同期比17%増)、営業損益19億2,800万円の黒字(前年同期は約5億円の赤字)となった。貸会議室の需要が急回復している。
通期の営業利益予想は20億円で据え置いているが、上期時点で進捗率は96%に達している。決算説明資料によれば「業績予想の修正は未整理事項の精査終了後、速やかに開示予定」としている。
4.ウェルス・マネジメント(3772)
高級ホテルへの投資や運営事業を展開している。ファンドを活用したホテル開発も強み。大阪や京都のホテルを買収し、高級ホテルへと再生・運営している。
また、外資系高級ブランドの誘致にノウハウと実績がある。日本では特に、富裕層向けのハイグレードホテルが圧倒的に不足している。企業側の資料によれば、2020年からの10年間で、現状の3倍から5倍の客室数が必要だと見込まれている。
5.日本スキー場開発(6040)
白馬八方尾根など国内有名スキー場を運営している。経営難に陥ったスキー場の運営会社からのM&Aで業容を拡大し、大規模施設を中心に長野県、群馬県、岐阜県に計8ヶ所のスキー場を展開。日本のスキー場の雪質は世界のスキーヤーに評判で、インバウンド増加は景気回復の追い風になるだろう。
夏場もリゾート需要を取り込み集客力は高い。2022年7月期に営業黒字転換し、2023年7月期も実質増益の見通しとなっている。