円安阻止介入が長い間行われなかった理由
【疑問その4】なぜ円安阻止介入は四半世紀近くも行われなかったのか?
9月22日に行われた為替介入は、円安阻止の円買い介入としては1998年6月以来、約24年ぶりで、21世紀に入ってからは初めてだった。2000年以降、円高阻止の円売り介入は何度か行われたが、2002年135円、2007年124円、2015年125円といった130円前後までの円安局面もあったものの、円安阻止介入は行われなかった。その最大の理由は日米貿易不均衡問題の影響が後退したことだろう(図表1参照)。
1998年のケースは例外ながら、1980~1990年代の円安阻止介入は、円安が日本の貿易黒字増加をもたらすとした米国の不満を受けた措置との位置付けが基本だった。ただ2000年以降は、日本の貿易黒字に対する脅威が大きく低下した。それによって米国も円安に寛容となり、日本ではなお円安は輸出にプラスといった「良い円安」との受け止め方が基本となった。さらに2000年に入る直前から日本経済がデフレに転落したことで、輸入物価を押し上げる円安に対しての受け止め方が鈍感になった可能性があった。
こうした中、今回21世紀で初めての円買い介入となったのは、世界的なインフレの中、日本でも物価高への懸念が強まったことが大きかった。デフレ時代で鈍感だった円安の影響について、インフレが広がる中で懸念が強まったということだろう。
【疑問その5】円安阻止の介入資金が枯渇することはあり得るのか?
円安阻止介入は円を買って外貨を売る取引になるが、外貨準備で保有している外貨は有限のため、円高阻止介入に比べると制約があるとの指摘はある。日本の外貨準備は、現在1兆数千億米ドルにも上っているものの、その全部を円安阻止介入に使えるものではなく、比較的大規模な円買い介入局面として知られている1997~1998年の例などを参考にすると、円買い介入に使えるのはせいぜい1割程度と考えられる。要するに、米ドルなど外貨売り介入の枠は最大で1千億米ドル程度ではないか。
ては、もしもこの枠を使い切りそうになった場合、介入資金が底をついて円安阻止ができなくなるかと言えばそうではないだろう。日本だけでなく、過去に外貨売り介入資金の補充策として何度か議論されたのは外貨建て債券の発行というプランだった。
日本においても、1980年代の前半にこの議論があり、当時の総理大臣の名前から「中曽根ボンド」と呼ばれた。このような動きがもしも今回再現するようなら、「岸田ボンド」発行により外貨売り介入資金を補充するといったイメージだろう。
ただ、最近の状況は、円防衛介入資金の枯渇が懸念されるまで追い込まれているのだろうか。日本の外貨準備の大半は、120円以下、最安値では70円台で購入した米ドルだ。それを140円以上で売却するのは相当の為替差益が出るはずだ。
また、円防衛といった議論になるのは、円金利上昇でも円安が止まらなくなった時が基本だろう。以上のように見ると、円防衛の介入資金枯渇を懸念するのは、今の段階では観点が違うだろう。
【疑問その6】日銀が金融緩和を変えない限り、為替介入でも円安は止まらないのか?
今回の米ドル高・円安は、米インフレ対策の利上げが主因と考えられる(図表2参照)。そうであれば、米ドル高・円安の終了は、日銀の金融緩和や円安阻止介入より、米利上げ政策の転換が最大の鍵を握ると考えるのが筋ではないか。要するに、インフレが是正され、米利上げが終了すると、日本の金融・為替政策とは別に、米ドル高・円安も転換に向かうと考えられる。