米金利上昇の圧力低下で、米ドル/円は動きにくくなるのか

米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利は、2022年末に3.4%まで引き上げられる見通しですが、8月17日、政策金利を映すとされる米2年債利回りは3.375%まで上昇してきました。

2022年の米ドル/円相場の上昇は日米金利差拡大が主たる材料となってきました。ここから年末までに引き上げられる見込みの政策金利水準を超えて短期金利が上昇するか否かが、ここからの米ドル/円相場を見る上でも注目です。

7月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.5%の上昇となりました。市場予想の8.7%、前月の9.1%を下回り、インフレのピークアウトの兆候が確認され始める中、金利の上昇圧力は弱まって来るとみられます。しかし、インフレ指標がすぐに低下することは考えにくく、金利がこの水準から急低下する事もなさそうです。

この先、金利が動きにくくなると仮定するなら米ドル/円相場もトレンドを失うことになりそうですが、米ドル/円相場の変動要因は米金利動向だけではありません。

常態化した日本の貿易赤字

2022年の米ドル/円相場を大きく動かした材料がもう1つあります。エネルギー自給率の低い日本は、海外から原油やガスを輸入する必要があります。原油などを輸入する際の決済通貨は基軸通貨である米ドルです。日本企業は保有する円を米ドルに替えてエネルギーを輸入しなければなりません。

このとき為替市場では米ドル買いが発生しますが、輸入する原油やガスの価格が高騰すればその分、米ドル需要が増大します。為替市場で聞かれる「米ドル不足」という言葉は、仲値決済の米ドル需要が大きく米ドルが足りない状態を指しますが、2022年はエネルギーだけでなく資源価格全般が高騰した影響で、慢性的な米ドル不足状態にあり、これが米ドル高の一因になっています。

今週発表された日本の7月の貿易統計によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1兆4,368億円の赤字で、赤字額は7月としては過去最大となりました。赤字は12ヶ月連続です。

なお、2022年上半期(1~6月)の貿易赤字は7兆9,241億円で半期として過去最大の規模に膨らんでおり、これがドル高円安の底流にあることも忘れてはなりません。米金利上昇が止まったとしても米ドル/円相場は円高には大きく崩れにくい構造となってしまっているのです。

足元では原油価格はじめ資源価格が下落してきたこともあり、下半期は輸入コスト縮小で赤字幅も小さくなることが見込まれます。しかしながら、東日本大震災後の原子力発電所の稼働停止に伴い火力発電所用の燃料輸入に頼らざるを得ない状況に陥った日本は、貿易赤字が常態化し、これが円安を招いていることは覚えておく必要があるでしょう。

ドイツも貿易赤字国に、ユーロ安になった背景とは

また恒常的な貿易黒字国であったドイツが2022年5月に貿易赤字に転落しました。ドイツの貿易赤字は1991年以来で、その赤字幅は過去最高となっています。

ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁への報復としてロシアからのガス輸入量が低下しており、欧州はエネルギー資源に対してロシア依存からの脱却を迫られています。

欧州委員会は3月、2030年まで米国から液化天然ガス(LNG)の大幅な追加供給を受けることで合意したとの声明を発表しました。この合意により、EUのロシア産天然ガスに対する需要の約3分の1を米国産LNGに置き換える見通しです。

これが意味することは、日本同様に欧州でも米ドル買い需要が増す、ということです。ユーロ/米ドル下落の背景にはこうした実需のユーロ売り米ドル買い需要の増大もあるということで、ユーロ/米ドル下落のトレンドも継続していく可能性が大きいと見られています。