みなさん、こんにちは。日経平均株価はさらに上昇し、これまでのボックス圏の上限を試す状況となってきました。企業の第1四半期決算が概して予想以上に堅調であり、世界的な金利上昇ラッシュにも一服感が出てきたことがその背景にあるのでしょう。

あまりに急ピッチで懸念の大きかった円安も、金利上昇観測の後退から押し戻される状況となっています。とはいえ、景況感は世界的に急速に悪化しているのも事実です。今後は、どれだけ実体経済が持ち堪えることができるのかが重要なポイントとなるのでしょう。まずは日経平均株価がボックス圏をしっかり上放れることができるかどうかを見極めたいところです。

世界情勢の変化で注目度が増してきた防衛産業

さて、今回は「防衛産業」をテーマに採り上げてみましょう。2022年6月のコラムで「骨太の方針2022」をテーマに採り上げた際、今後期待される産業の1つとして防衛関連を挙げました。ロシアによるウクライナ侵攻に端を発した生命と財産が脅かされるリスクの増大に伴い、防衛関連産業の予算積み増しがなされるだろうという見方です。

実際、7月の参院選では防衛予算の対GDP比率2%への引上げ(現在は約1%)が政権与党から公約として提出されるなど、そのような流れは日を追って鮮明になってきたと感じています。

さらに、直近では米下院議長の訪台をきっかけに、台湾海峡においてもきな臭さが一層増す展開となってきました。我が国においても、防衛力の強化は焦眉の急だとする意見が増えてきたように思います。そのような状況の変化を受け、今回のコラムではもう少し防衛関連産業について深堀をしてみたいと思います。

防衛関連産業が市場拡大する可能性

まず、防衛関連産業の市場です。国家の防衛予算はおよそ5兆円ですが、このうち、人件費や糧食費を除いた物件費(装備品や訓練費)の約3兆円がその市場規模に相当すると位置付けられます。

ただし、戦闘機などの装備品は海外から調達する例も少なくないため(例えば、航空機購入費はおよそ年間3,000億円)、国内企業に年間に支払われる金額はこれよりも少ない金額になっていると考えて良いでしょう。

防衛省によると、調達費は1.7兆円であり、このうち約4,000億円は米国からの有償援助であるとしています。欧米などの防衛産業と比べるとかなり小さい規模となりますが、今後、防衛予算の対GDP比率が倍増するということは、この3兆円の物件費(調達費では1.7兆円)も倍に近い増額がなされる可能性があるということに他なりません。

しかも、防衛装備品などは特殊なモノが多いため、供給側もかなり限定されるというのが現実です。市場の拡大があれば、既に実績のある企業がまずその恩恵を被ることになると想像できるでしょう。

直近では幾つかの企業が採算悪化を背景に防衛関連製品からの撤退を表明してきていますが、市場の拡大があれば、そのような採算面でも改善が進むものと期待できます。ちなみに、2020年の防衛省への納入実績上位5社は、三菱重工業(7011)、川崎重工業(7012)、富士通(6702)、三菱電機(6503)、日本電気(6701)でした。

防衛関連産業を株式投資でみるポイント

では、株式投資という観点ではどのようなことに注目するべきでしょうか。最初に考えつくのは、防衛省への納入実績を有するオーソドックスな防衛関連企業群となるでしょう。防衛省の公式サイトを見れば、納入実績上位20社が開示されています。まずはそれらが投資候補となります。

ただし、防衛予算増がどれだけその企業にインパクトを与えるのか、も重要な視点となります。装備品納入ランキングが高くとも、企業全体の売上規模が遥かに大きければ、防衛予算増の全社業績に占める貢献度はそれほどでもない、というケースが考えられるためです。

日本では防衛装備品の専業企業は数少ないため、実績の多寡のみならず、その企業に与えるインパクトもしっかりと見極めておく必要があるでしょう。

伝統から革新へ、防衛予算を取り巻く新たな企業群にも注目

さらに、私はその中身がより重要だと考えます。防衛予算と一括りにしても、その中身は多種多様です。

装備費の最も多い使途は海上予算で、次いで航空予算、そして陸上予算となっています。規模で言えば、海上予算は陸上の倍以上です。四方を海で囲まれている我が国では、自ずと防衛のためには海上、航空への予算配分が重くなる傾向にあるのです。とすれば、地政学リスクが高まる中で、正面装備よりも輸送機関連などへ予算は大きく配分されると考えるべきでしょう。

さらに、ロシアから侵攻を受けているウクライナが抵抗を続けていられるように、サイバー空間や宇宙・衛星を通じた情報の収集・発信もかつてないほど重要となってきています。これからの防衛は、むしろこのような領域の充実強化が伝統的な防衛装備強化と同等の重みを持つことになるはずです。

これらへの対応は、伝統的な企業群はもちろんながら、斬新な発想や技術を擁する新興企業が活躍できる領域でもあると言えます。安全保障関連となると、どうしても物理的な正面装備などを想定してしまいがちですが、このようなIT分野の企業が活躍できる余地もまた大きいと予想しています。