2022年1〜6月期、上半期では過去最大となる1,766億円の最終赤字を計上した楽天グループ。2019年10月に参入した携帯キャリア事業の投資がのし掛かっているが、株式市場では好感され決算発表後8月12日の株価は8%近く上昇した。
データ通信量が1GBまで無料の「0円プラン」廃止を5月に発表し、6月時点の契約数は22万件減と初めて減少。しかし三木谷浩史会長兼社長は8月10日の決算説明会で、国内人口の約1割にあたる1,200万件まで「近づいていく」と述べた。
そして改めて「No.1になった楽天カードビジネスと同じpathを辿り、国内No.1のモバイルになる」と強調した。携帯事業の決算の詳細と、強気の根拠を解説する。
モバイル赤字「今年がボトム」
高にあたる売上収益は1〜6月に前年比13%増の8,935億円、純損益は1,766億円の赤字だった。赤字幅は前年(770億円の赤字)から995億円増大している。
2023年に4Gの人口カバー率99%以上を掲げ、6万局開設を目指す基地局(6月は4万7,556局)や、「屋内や地下鉄で弱い」と言われる通信環境を改善する設備の投資がかさむ。モバイル事業の営業損益は2,593億円の赤字だ。
ただ四半期ベースでみると、4〜6月の同事業は1,242億円の赤字で1〜3月から100億円強改善。参入後の2020年1〜3月以降で、赤字幅が初めて縮小した。
三木谷社長が「新時代を切り開いている」と語るネットワークの仮想化など独自インフラの技術供与は世界で引き合いが強く、収益源として育成を進める。また自社通信網の整備により、KDDIに回線を借りて支払う費用も減っている。
「投資額はどんどん減る。(モバイルの収益)は今年がボトムでここから改善していく」(同)。設備投資やローミング費用に前年は通期で5,000億円強を投じたが、2022年12月期は4割減の3,000億円程度となる計画だ。
9月にARPU50%増
0円プランが完全廃止される10月を前に、6月の契約者数は546万件と3月から22万件(4%)減った。ただし、自社回線の解約の8割は1GB未満の利用者だったという。廃止発表後、メーン回線としての契約者は8.3ポイント増えた。
三木谷氏は「2年半前は『使ってもらわないと意味がない』と大胆な価格戦略をとったが、もうやめた。大きな戦略の変化ではなく、進化だ」と話した。
0円プラン廃止により、9月のARPU(1契約あたりの平均売上高)は50%増加する見通しだ。「地方のカバレッジが弱い問題も解消しつつある。支払いがあるユーザー自体は純増していて、Paidユーザーに入れ替わっている」(同)
楽天によると、携帯契約の申し込みのシェアは東京23区が最多の9.4%。東京都全体や神奈川県、大阪府など基地局の整備が早かった大都市部が続いており、三木谷社長は「申込率は全国で10%にしたい」と語る。
全人口で東京23区水準の申し込みシェアを獲得できた場合、約1,200万件の獲得が可能という見立てだ。足元で解約数は減少し、三木谷社長は2023年にはモバイル事業の収益は単月で黒字化させる方針を示した。
モバイル契約増で楽天市場も拡大
「持続成長のために大きい要素だ」(三木谷社長)。赤字の連続によって「全体の足を引っ張っている」印象を持たれるモバイル事業だが、実際に既存事業にはどれほどの相乗効果をもたらすのか。
楽天モバイルの契約者のうち、契約前まで楽天の他のサービスを使っていなかった人は6月に21.5%だった。この割合は上昇傾向にあり、グループ全体の会員基盤の拡大に寄与している。
またモバイル新規契約者の6割は楽天市場、4割はポイントカード、2割はクレジットカードの利用を始めた。モバイル加入者の同社ECの消費額も増えており、仮に1,200万契約を獲得すると楽天市場の流通総額は15%上がるという。
楽天は多くのサービスを使うほどポイント還元率を高める楽天エコシステム(経済圏)戦略を展開してきた。クロスユースは増えているが、スマホ決済PayPayを中心としてソフトバンクやヤフーも経済圏構想を推し進めている。
経済圏に新しい顧客を呼び込むための看板としてもモバイルを位置付ける。三木谷社長は0円プランを廃止しても、ほかキャリアに比べて料金の優位性は確保し続ける意向を強調した。