今回、ジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのブライアン・レヒト氏にインタビューを行ないました。ジャナス・ヘンダーソンは、主要資産クラスのノウハウを有する資産運用会社です。同社で2020年からポートフォリオマネージャーを務めているレヒト氏に、投資対象の選び方や注目のセクター、米国株式市場の長期的な見通しなどをお聞きしました。
企業の競争優位性を見極める5つのポイント
岡元:まず御社のファンドについてお聞きします。「ハイ・コンビクション(確信的)アプローチ」で、最大40銘柄を選んで投資されていますね。その意思決定プロセスについて教えてください。
レヒト氏:私たちは、ビジネスモデルに対して投資することを第一に考えています。具体的には、ビジネスモデルについて考えるとき、投資対象企業の競争優位性は何かを理解するようにしています。競争優位性は、さまざまな形でもたらされると考えています。私たちはそれらを次の5つの側面から見ています。
第1は、技術的な競争優位です。例えば私たちが株式を保有するASMLホールディング(ASML)は半導体製造装置の企業で、このような技術を持つ企業は他にありません。技術のない国で同社の装置を一から作り出そうとしても、何年もかかると言われたこともありました。この技術こそが、何年も続く競争力なのです。
第2の競争優位は、ブランド力です。その例としては、ナイキ(NKE)が挙げられるでしょう。 一見ナイキは靴と材料を接着剤で貼り合わせているだけの企業に見えるかもしれませんが、原価比でほぼ100%利益を上乗せして販売しています。
第3の競争優位は、流通です。アマゾン・ドットコム(AMZN)が良い例です。アマゾンで注文したことのある方なら誰でも、商品がいかに届くのが速いか、その流通の優位性が他社に負けないことをご存じでしょう。
第4の競争優位は、ネットワーク効果です。この例としてはマッチ・グループ(MTCH)が挙げられます。マッチ・グループは、TinderとHingeという2つのデーティングアプリの親会社です。これらの強みは、Tinderを使うユーザーが増えれば増えるほど、また、Hingeを使うユーザーが増えれば増えるほど、それぞれのアプリがより強力になり、より良い体験ができるようになることです。
最後に考える競争優位性は、コスト構造です。例として、ディスカウントストアのT.J.マックスの親会社であるティージェイエックス・カンパニーズ(TJX)が挙げられるでしょう。T.J.マックスが強力なのは、そのコスト構造と店舗ネットワークにより、多くの競合他社よりもはるかに安く商品を仕入れることができるからです。そのため、商品をより安く販売することができ、お宝探しのような環境を作り出すことができるのです。
長期的な視点を持つ優れた経営陣を見分ける
レヒト氏:企業の競争優位性を把握したら、次は、その競争優位性が持続可能かどうかに焦点を当てます。なぜなら、ある企業が現在優位に立っているからといって、それが3年、5年、10年先も続くとは限らないからです。私たちは長期的な投資家であろうと考えています。
競争優位性が持続可能であると納得したら、その企業の経営陣を知り、理解することに多くの時間を費やします。基本的に、私たちはほとんどの企業の経営陣を懐疑的に見ています。私たちは経営陣を「伝道師」と「雇われ兵」に分けており、米国企業の多くの経営陣は「雇われ兵」に入ると考えています。このような「雇われ兵」の場合のCEOの平均在任期間は5〜6年だと思います。多くの場合、取締役は、その仕事に対して非常に高い報酬を得ています。
CEOと取締役会の組み合わせは、短期的な報酬を最大化し、短期的に株価を最大化するために、短期的な意思決定をインセンティブにすることがよくあります。それは彼らにとっては素晴らしいことですが、私たちはこのような「雇われ兵」ではなく、「伝道師」によって経営されている企業に投資したいと考えています。「伝道師」は、長期的な視野で考えることができる創業者・起業家であることが多いからです。
今日の企業の成長と競争優位性は、5~7年前に行った投資によってもたらされます。5年後の成長期間は今日の資本配分の決定によって左右されるため、長期的な視点で考えることができる優れた経営陣を持つ企業に投資することが非常に重要なのです。
競争優位性、その優位性の持続期間、経営陣を理解し、最終的にバリュエーションが妥当で、ハードルレートに見合うリターンを見込めると判断すれば、その企業への投資を決定します。これらが私たちのポートフォリオにおけるハイ・コンビクション投資の実践と考えているわけです。
「常に仮説に挑戦し、疑問を投げかける」
岡元:選んだ銘柄の平均保有期間はどのくらいですか?
レヒト氏:私たちのポートフォリオの銘柄入れ替え率は30%弱だと思います。つまり、平均保有期間は3年強となります。もっと長期で保有している銘柄もありますが、いくつかの銘柄の入れ替え率が高くなっています。もちろん、私たちは銘柄の入れ替え率が0に近くなることを望んでいます。そうであれば、私たちは何のミスもしていないということになりますから。
しかしそんなことはあり得ません。35~40社しか保有しない集中型ファンドを運営しているという性質上、常に自分たちの仮説に挑戦し、疑問を投げかけていかなければなりません。そして、資本は他の場所でもっと有効に活用できるとの判断もあるのです。
仮説が間違っていたとすれば、それを新しい銘柄に入れ替えるでしょう。ですから、入れ替え率が高いのは、私たちが保有する銘柄について謙虚で正直であるという性質によるものだと考えています。
アマゾン(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)の魅力
岡元:御社のポートフォリオにはGAFAM企業が入っていますね。投資家の中には、GAFAMは最盛期を過ぎたと主張する人もいますが、御社はこれらの企業をどのように見てらっしゃいますか。
レヒト氏:私たちがベンチマークとしているラッセル1000インデックスでは、GAFAMの比重は約36~37%と非常に大きな割合を占めています。私たちのポートフォリオでは、それよりも大幅に少なくなっています。ただし、アマゾンやマイクロソフトなどは魅力的だと思いますし、GAFAMすべての株式を個別に検討しています。
アマゾンといえば、多くの人が思い浮かべるのは、小売事業です。アマゾンのネットサイトで注文をすると商品が玄関にすぐ届きます。ですが、私たちがアマゾンにおいて最も期待しているのは、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)、つまり同社が自ら築き上げ、育ててきたクラウド事業です。
AWSは現在、年換算で売上高700億ドルのビジネスであり、直近の四半期では前年同期比37%の成長を遂げています。ですから、アマゾンの評価の大部分は、AWSで説明できると考えています。さらに、AWSに加え、2022年には400億ドル近い売上が見込まれる広告ビジネスも加わり、アマゾンのビジネスには魅力的な部分がたくさんあると思います。
一方、アマゾンの小売事業には逆風もあります。トップラインは減速しています。コロナ禍の影響も大きかったです。時間通りに荷物を届けるために人員を増やし、2021年はそのコストが足を引っ張りました。過剰な人員と倉庫の過剰なキャパシティを合わせると、実に40億ドルの収益性の逆風となりました。しかし、これらは時間の経過とともに解消され、アマゾンの中核である小売事業は、非常に収益性の高い、質の高い事業となると考えています。
また、私はマイクロソフトは最高レベルの経営陣を擁する素晴らしい企業だと思います。同社の魅力は、コアビジネスであるSaaS(Software as a Service)ビジネスが、現在の50%以下の経常収益から、将来的には70%に成長しつつあることです。ご存じのように、同社のクラウドサービスの「オフィススイート」はシェアを拡大し続けています。その結果、同社のフリー・キャッシュフローは何年にもわたって着実に成長し、現在のバリュエーションは極めて妥当なものだと考えています。
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本インタビューは2022年6月23日に実施しました。