突如米ドル急落となった理由

7月の米ドル/円は、一時140円近くまで上昇しましたが、7月27日のFOMC(米連邦公開市場委員会)を境に大きく下落に転じると、一気に132円台まで急落となりました(図表1参照)。

【図表1】過去半年の米ドル/円の週足チャート (2022年2月~)
出所:マネックス証券「分析チャート」

まず、140円近くまで米ドル高となったのは、米6月CPI(消費者物価指数)が予想以上の上昇率となったことを受けて、7月FOMCで利上げ幅を1%に拡大するとの見方が急浮上したことが主なきっかけでした。

ただ実際の利上げ幅は0.75%となり、加えてFOMC翌日に発表された4~6月期の米GDP成長率(速報値)が前期に続き2四半期連続のマイナス成長となると、米国の政策金利であるFFレートの引き上げは、この先3.5%未満にとどまるといった具合に米利上げ見通しを下方修正する動きが広がりました。こうした中で、米ドルは突如急落に向かったわけですが、これについて少し詳しく見ていきたいと思います。

7月FOMCの利上げ幅は、上述のように一時浮上した1%を下回ったものの、1994年以来だった6月の0.75%利上げに続き、大幅利上げを2回連続で行ったということになります。

それにもかかわらず、なぜその後から突如米ドル急落に向かったかと言えば、そもそも米ドルは、政策金利に連動するわけではなく、それを先取りする市場金利、この場合なら、米2年債利回りなどに連動することが基本で、その米2年債利回りはFOMCの後低下に向かったので、米ドルもそれに連れて下落したということでしょう(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と米2年債利回り (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

米2年債利回りは、既に6月には3.4%まで上昇しました。これは、基本的にFFレートが3.5%まで引き上げられることを先取りした動きということでしょう(図表3参照)。その米2年債利回りなどの上昇を手掛かりに、米ドル/円も140円近くまで上昇したわけです。

【図表3】米2年債利回りとFFレート (2000年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

ところが、7月27日のFOMCを境に、上述のようにFFレート引き上げは3.5%未満にとどまるとの見方が広がりました。こういったことから、米2年債利回り上昇も、それを手掛かりとしてきた米ドル高も、既にピークアウトした可能性が出てきたわけです。

「米金利上昇=米ドル高」が終わる可能性が出てきた。その上で、細かく見ると、2年債利回りなど米金利の多くは6月にこの間のピークを付けていたのに対し、米ドル/円は7月に入り米ドル高値を更新するなど、米金利と米ドルの動きにかい離も目立ち始めていました。そして、そのように米金利から見て「上がり過ぎ」が懸念されていた米ドルは、90日MA(移動平均線)かい離率がプラス10%近くまで拡大するなど、短期的な「上がり過ぎ」も懸念されるものでした(図表4参照)。

【図表4】米ドル/円の90日MAかい離率 (2000年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

7月FOMCをきっかけに、「米金利上昇=米ドル高」終了の可能性が出てきたことを受けて、そのような米ドル「上がり過ぎ」修正も一気に広がったことが、米ドル安・円高が突如急拡大した主たる背景だったのではないでしょうか。

8月中の130円割れはない!?

一時132円台まで米ドル/円が下落したことで、90日MAかい離率はマイナス2%程度まで縮小しました。米金利との関係も含めて、米ドルの短期的な「上がり過ぎ」はかなり修正されたでしょう。

米金利は、既に6月でピークを付けた可能性はあるものの、一方でまだ米景気減速への懸念はそれほど深刻なものではなく、FOMCも利上げを続ける見通しの中においてはさらに大きく低下するとは考えにくいでしょう。米金利の見通しを前提にするなら、米ドル/円も8月に一段と大きく下落し、130円割れに向かう可能性は低いのではないでしょうか。

米金利上昇にリードされる形で2021年102円から続いてきた米ドル高・円安トレンドは、米金利上昇の終了によって、140円に届かないまま終わった可能性が出てきたと思います。ただし、短期的には一気に「行き過ぎ」修正も進んだことから、さらに大きく米ドル安・円高に向かうわけでもない、8月の米ドル/円はそんな見通しになるのではないでしょうか。

ちなみに、図表5は、過去4回の米ドル高・円安から米ドル安・円高へのトレンド転換直後の値動きの特徴について調べたものです。これをまとめると、円安トレンドが終了すると、2ヶ月で5%以上の米ドル下落が起こり、下落率が10%以上に拡大するのは半年以上の時間がかかっていました。ただし、途中で「××ショック」などに巻き込まれると、米ドル安・円高はより激しいものとなりました。

【図表5】過去4回の円高トレンド開始直後の値動き
出所:チャート・データを元にマネックス証券が作成

今回は既に7月の米ドル高値139.4円程度を記録したタイミングから1ヶ月も過ぎない中で一時132円半ばまで下落、下落率はほぼ5%に達しました。これまでの経験からすると、とくに「××ショック」に巻き込まれるようなことでもなければ、8月中に130円を大きく米ドルが割り込む可能性は低いでしょう。以上から、8月の米ドル/円は130~136円中心の展開を予想します。