割高が懸念される外貨投資の考え方
米ドル高・円安が1998年以来、約24年ぶりの水準に達するなど歴史的な円安局面が展開する中で、円に対する外貨の割高懸念が広がっている。その代表格は新興国通貨だろう。例えば、メキコシペソ/円の過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)からのかい離率は2014年12月以来のプラス20%以上に拡大した(図表1参照)。
また、同じく代表的な新興国通貨である南アフリカランド/円の5年MAかい離率もプラス10%以上に拡大した(図表2参照)。こちらは、2008年の「リーマン・ショック」前に同かい離率がプラス20%以上に拡大した局面以来の大幅なプラスかい離率ということになる。このように5年MAかい離率がプラス方向に拡大するほど、中長期的な割高懸念が拡大しているといった意味になる。
インフレ率が相対的に高いことから、中長期的に通貨価値が下落する新興国通貨の場合、基本的には過去5年の平均値、5年MAを上回ることすら多くなかった。5年MAを最近のように1割以上といった具合に大幅に上回ったのは、メキシコペソ/円、南アランド/円とも、2000年以降でせいぜい1~2回しかなかった。最近はいかに割高懸念が拡大しているかがわかるだろう。
このように新興国通貨の対円での割高懸念が拡大したのは、歴史的な円安に加え、資源、エネルギー価格の高騰の影響が大きいだろう。産油国のメキシコ、そして世界有数の金産出国の南アフリカといった具合に、新興国は資源国であるケースが多い。
代表的な資源国通貨とされる豪ドルも対円での割高懸念が強まっている。豪ドル/円の5年MAかい離率はプラス20%程度まで拡大、2013年や2008年「リーマン・ショック」前以来の大幅なプラスかい離率となっている(図表3参照)。この中で、特に2008年の「リーマン・ショック」では、割高の反動が豪ドルの大暴落をもたらすところとなった。
豪ドル/円は2000年の50円台から、この「リーマン・ショック」前には100円を超えるまで上昇していた。当時の豪ドルは金利も比較的高く、その上で長期上昇トレンドが続いたことから、個人投資家にも人気の通貨となっていた。ところが、「リーマン・ショック」をきっかけに、割高修正が一気に広がったことから、ほんの数ヶ月で100円から50円台への大暴落となったのだった。
現状、外貨の割高懸念が拡大しているのは、冒頭にも述べたように歴史的な円安の影響が大きいだろう。米ドル/円の5年MAかい離率も、1980年以降でこれまで3回しかなかったプラス20%以上に拡大してきた(図表4参照)。行き過ぎた米ドル高・円安の懸念が強くなっているといえるだろう。
以上みてきたように、対円での外貨の割高懸念が広がっているが、割高局面での投資は、反動が本格化すると大きく下落するリスクを抱えているため、長期保有目的の買いには慎重さが必要になる。そういった中でも新たに買う場合は、投資額を抑制し、損失を最低限にとどめるためにストップ・ロスを付けた上で、小まめに利益確定するといった短期売買の意識が不可欠だろう。