介護に備えて金銭的な準備を進めるとともに、資産管理について考えておくことが大切です。高齢者保護の観点から、預金の引き出し制限をかける金融機関もあり、介護費用の支払いが困難になる可能性も考えられます。また、内閣府の高齢社会白書(令和3年版)によると、認知症は高齢者の最大の介護要因となっています。そこで今回は、自分が認知症になった場合に備える財産管理方法をご紹介したいと思います。

ATMからの預金引出や振込の金額制限に注意

前回の記事でお伝えした通り、介護の必要度や介護に対する希望によって、介護用品の購入や介護施設および介護サービスの利用料など想定外の支払額が必要になる場合があります。介護サービス事業者などによって支払い方法は異なりますが、一般的な方法として現金や口座振込みでの支払いが考えられるでしょう。

ただ近年では、特殊詐欺防止の観点から、銀行預金のキャッシュカードによる支払い(出金や振込)限度額の制限が厳しくなっています。金融機関やキャッシュカードの種類によっても制限額は異なりますが、1日当たりの出金額が50万円、振込額は100万円まで等と制限があるため支払金額によってATMでの振込ができず本人による窓口での振込が必要となるケースもあるようです。

必要な時の支払いに困らないために、自分自身の口座がある金融機関の制限額や代理人による出金可否や方法、利用したいと思う介護事業者の支払い方法を確認し、財産管理の対策をしておくことが大切だと思います。

認知症で金融機関の口座が凍結される可能性も

介護が必要になる原因は様々ですが、財産管理の面でより困るのが認知症になった場合でしょう。認知症とは、脳の細胞が損傷を受けたり、働きが悪くなったりすることで、認知機能が低下し、様々な生活のしづらさが現れる状態を指します。口座保有者に判断能力がないと判断された場合、口座が凍結(取引ができない状態)されるおそれがあります。口座が凍結されると、たとえ家族であっても口座にある財産を引出すことができません。そうなると、本人が介護資金を準備していたとしても、家族による立て替えが必要になってしまいます。

また、意思能力がないと判断されると、契約行為ができなくなるため、自宅などの不動産売却もできなくなります。ご自身が保有する財産で介護資金の工面が難しくなるため、家族が負担しなければならなくなる可能性があります。

万が一、認知症になった場合に備えて家族が自分の財産を管理できるような対策をしておくことが賢明でしょう。

認知症になった場合の財産管理方法

では、認知症になった場合の財産管理法をご紹介します。ご自身に合う方法で対策を考えましょう。

成年後見制度

成年後見制度は認知症などで判断能力が不十分になり、契約締結や財産管理ができなくなった場合に、後見人等が本人の財産管理等を行う制度です。

大きく「法定後見」と「任意後見」の2つに分けられます。これらの主な違いは対策のタイミングです。「法定後見」は判断能力が不十分となった後に家庭裁判所が後見人等を選任しますが、「任意後見」は本人の判断能力があるうちに、本人があらかじめ後見人等となる人や、委任する手続きを決めておきます。

成年後見制度を利用することで、財産管理上の不安は軽減されますが、財産を守ることが目的であるため財産の使い道など運用がやや硬直的です。また、後見人等への報酬が発生します。報酬については、管理財産が大きければその分、高額になるようです。

民事信託(家族信託)

家族信託は自分の財産の管理や処分する権限を、信頼できる家族に託す契約を締結するものです。本人の判断能力が十分に備わっている間に契約しておくことで、認知症などになっても受託者が財産管理を行うため安心です。

なお、財産を管理運用処分できる権利は受託者(家族など)が持ちますが、財産権(財産から利益を受ける権利)自体は委託者(本人)にあります。そのため、受託者は信託された財産の収支を作成報告する義務や、任務を怠って受託財産に損失を与えた場合は損失てん補などの責任を負います。

商事信託(金融機関の財産管理サービス等)

民事信託との違いは財産管理のプロである金融機関等が受託者となるため、より信頼性が高く安心して利用できると言えるでしょう。あらかじめ手続代理人を指定しておくことで、認知症と診断された時に手続代理人が出金できるようになります。

手続代理人は金融機関に対する出金および株式等の売却の指示や、金融機関からの通知の受け取りなどを行いますが、財産管理・運用や財産収支報告書の作成などは金融機関が行います。対象となる財産は金銭の場合は信託銀行等の金銭信託ですが、最近では株式等の有価証券を対象とする信託もあります。

「できるだけ自分のことは自分でやりたい」と思う方も多いでしょう。しかし、認知症等による判断能力の低下によって財産管理が難しくなる場合もあります。もしもに備えて判断能力がしっかりしているうちに、ご家族が財産管理を行える方法について検討しておくことが大切です。今回紹介しました財産管理法を参考に、家族と話し合い、対策を進めていただければと思います。