テレビ東京のニュースモーニングサテライトはとても役に立つニュース番組である。今朝の新村さんの解説では、ウクライナ危機が幅広い物価上昇につながることが詳しく語られていた。ウクライナ危機ではロシアの原油や天然ガスをめぐる報道は多いが、他にもバッテリーに使われるニッケルや自動車の排ガス触媒に使われるパラジウムなども多く産出しており、供給不安による価格高騰リスクがある。また食料に目を向けると小麦はロシアとウクライナで約3割の供給シェアがあり、ここの供給が滞ると大変なことになる。

しかし、資源エネルギーや食品の価格はもともと変動しやすいため、物価指標ではそれらを除くコア指数を見るというのが経済分析の基本である。実際にFEDが重視しているのは、都市部の帰属家賃の影響でインフレが高く出やすい消費者物価指数(CPI)ではなく、PCEデフレータのコアである。しかし、いまやインフレが国民の生活を直撃し、政治問題となっている状況では、コアが重要、などとは言っていられない。消費者の財布の中身はCPIに近い。ガソリンが値上がりすれば国民は怒るし、食料が値上がりすれば一部の国や地域では暴動が起こる。特に秋に中間選挙を控えたバイデン政権にとってはこのインフレを鎮静化させることが喫緊の課題である。

今週の水曜日にモーサテに出演された吉崎さんはFRBがこれだけタカ派になっている背景を、「大人の理由」「本音の事情」と表現されていた。つまり、バイデン政権への斟酌である。11月の中間選挙を意識すれば、夏までにはインフレ抑制の成果を出したいというのである。もしインフレを抑えきれずバイデン政権が選挙でぼろ負けすれば、次の大統領選でトランプ復活もあり得る。あれだけFRBの金融政策に口を出したトランプ氏の復活だけはFEDは避けたい、そのためにはインフレ抑制を優先し、景気を犠牲にするオーバーキルも辞さないかもしれない、というヨミである。

いまやインフレが最大の相場の焦点である。しかし、自慢するわけではないが(いや、自慢だが)僕は早い段階から、インフレが最大のリスクだと指摘してきた。自著『2021年 相場の論点』(日本経済新聞出版社)で既にそう述べている。この本を刊行したのは2020年の暮れだから、2020年の秋から既にインフレとそれに応じたFEDのスタンスの変化が相場にとって最大のリスクだと主張してきたわけである。

「2021年 相場の論点」より

というわけで、このテーマもいい加減、飽きた。それに僕は天邪鬼だから、みんながインフレが大変!と騒ぐと、それに自分も乗って同調するのは嫌なのである。

というわけで、今日のテーマは「インフレ懸念はいつ収まるか」である。2月10日のモーサテに出演した森田京平さん(彼だけフルネームのわけは、モーサテファミリーにもうひとり森田姓の森田長太郎さんがいるから)は2月か3月が米国CPIのピークだろうと述べていた。

僕もそう思う。グラフ1はCPIが急加速した2020年末から前回、前年同月比で7.5%の上昇となった今年1月分までのCPI(指数そのもの)をプロットしたものである。

グラフ1 米消費者物価指数(CPI)
出所:Bloombergデータよりマネックス証券作成

グラフ2はCPIの指数と、その前年同月比を表したもの。

グラフ2 米消費者物価指数(CPI)と前年同月比
出所:Bloombergデータよりマネックス証券作成

オレンジ色のラインがグラフ1のトレンドをそのまま線形に延長したもので、その前年同月比が黄色のラインである。もう1回、来月に発表される2月分はさらに伸びが高まるが、それがピークになる。ベース効果があるので既に高くなった前年の値と比べるからである。まあ、それが発表された時には分からないが、その後、数ヶ月経てば、CPIのピークアウトが市場に認識されるだろう。

インフレとは物価上昇のことだ。つまり物価上昇率が問題である。人々にとっては物価そのもの、つまり物価水準が問題で上昇率はあまり意識されない。日経平均が3万円をつけたとか、3万円を割ったとか、株価水準は話題になるが、昨年の日経平均の上昇率が何%だったか、即座に言えるひとは少ないだろう。それと同じように物価もガソリン価格がリッター170円とかはニュースになるが、上昇率が話題になることは少ない。

本当は、物価水準も物価上昇率も両方とも大切なのだが、市場ではどちらかと言えばインフレ率が問題である。金融政策に直結するからだ。ここで今日のテーマを思い出してほしい。「インフレはいつ収まるか」ではない。インフレはちょっとやそっとでは収まらないだろう。しかし上で示したようにCPI上昇率で見たインフレのピークアウトは早晩確認されるだろう。

市場が恐れているのはインフレ率がどこまでも高くなっていくようなシナリオで、それがピークアウト確認となれば市場の懸念は後退する。それが今日のテーマ「インフレ懸念はいつ収まるか」の意味である。おそらく早ければ4月、おそくても5月~6月にはCPI上昇率のピークアウトが確認できるだろう。その頃には22年3月期の決算発表も終わり23年3月期の業績見通しが出そろっている。FRBの利上げも開始されているだろう。不透明要因が後退し、市場も安定を取り戻していると思われる。