遺族が困らないよう早めに準備を
残された遺族にとって困るのは、亡くなってから初めて多額の借金があることが判ったり、知らない子どもが名乗り出てきたりすることです。そこまで大問題ではないにしろ相続人が困ることは、たくさんあります。家族が困らないよう生前にできることは早めにしておきましょう。
まずは、家族にどこにどんな財産(借金も含む)があるかを教えておくこと。自分が亡くなった後、家族がお金のことで慌てなくてすむよう預貯金、株式、貸金庫の在処などは最低限伝えておくべきです。
次は、遺族が困った時に頼りになる信頼できる専門家を紹介しておくと、助かるでしょう。例えば、アパート経営をしているなら、不動産・建築業者や税理士などが必要な場合もあるからです。
さらには、遺言書を書いて遺産の配分を決めておくことです。遺産の分割協議はトラブルになる可能性もあり、それを防ぐことが本当の愛情と言えるでしょう。
遺言書作成の注意点とは
一部の財産や割合だけを指定するのではなく、全財産を具体的に割り付ける
遺言で、一部の財産だけを対象にすると、残りの財産で揉めることが多いです。特定の財産だけを対象にした遺言はもちろん法的に有効ですが、相続争いの種にならないよう注意する必要があります。
遺言で特定の財産を与えることを「特定遺贈」といいます。Mさんは、同居して面倒を見てくれた三男に、こんな遺言を書きました。
「自宅は三男〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)に遺贈する。」
これは特定の財産だけを対象にした遺言で、自宅は三男が取得できますが、預貯金などその他の財産は、三男を含めた相続人全員で分割協議をしなければなりません。
相続人の関係が良好なら問題ありませんが、日ごろから仲が良くない兄弟であれば、三男が非難の矢面に立たされることもあるでしょう。残りの財産の分割の合意が整わず、相続手続き全体が遅れ、相続税の申告にも間に合わないことがあります。
全財産の配分だけの指定では、分割で揉める可能性も
では、遺言の対象を全財産とすれば、何も問題は残らないのでしょうか。子ども3人の配分に差をつけようと考えていたKさんは、こんな遺言を残しました。
「全財産を、長男〇〇に3/10、二男〇〇に2/10、三男〇〇に5/10の割合で与える。」
これも、遺言としては有効です。しかし、割合を減らされた長男と二男の2人は快く思わないでしょう。
Kさんのように、遺言で全財産の配分割合だけを示して与えることを「包括遺贈」と言います。こうした包括的な遺贈では、当事者の間で遺産分割の協議をしなければなりません。意見の食い違いや相続争いの起きる可能性が残されます。これでは、何のために遺言を残したのか分からなくなります。
財産配分は、資産別に具体的に書く
では、遺言書には、財産の配分をどのように書けばよいのでしょうか。自分のすべての財産につき、個別具体的に「Aは誰に、Bは誰に与える」と明確に指定することが重要です。言い換えれば分割協議を必要としない遺言を書くことです。
といっても、複数の銀行に預金口座を開いている場合もあるでしょう。株式では、様々な銘柄を持っているケースもあります。そうしたケースで、銀行口座や銘柄ごとに指定するのは大変です。
その場合は、「預貯金の一切は長男〇〇に遺贈する。株式の一切は二男〇〇に遺贈する。自宅は三男〇〇に遺贈する。」というように、預貯金や株式など、資産別に指定するとよいでしょう。