前編では遺言書作成時の留意点として、「遺言は、一部の財産や割合だけの指定ではなく、全財産を具体的に割り付ける」ことの重要性をお伝えしましたが、他にも留意すべき点があります。

資産配分において相続人の気持ちを十分に配慮する

遺言を作る際に注意したいのは、相続争いが起きないようにすることです。せっかく作った遺言書が争いの種になってしまわないよう、相続人同士の公平感と遺留分に配慮することが重要です。遺留分とは、一定の相続人に対して民法が保障する最低限の相続割合のことです。自分の考える財産配分が各相続人の遺留分を侵害しないかを十分に検討しましょう。

では、遺留分に配慮しないと、どんなことが起きるでしょうか。

事例(1)高齢の母親の配分を考えなかったSさん

子どものいないSさんは、「全財産を妻に相続させる」という遺言を残しました。しかし、数年後Sさんが亡くなったとき、Sさんの母親が99歳でなおご存命だったのです。

施設に入居している母親の面倒を見ていた4人の妹さんたちは、相続手続きにはいっさい協力しないと宣言しました。Sさんが遺言書を作成した当時、母親は89歳で、Sさんは自分より母親が長生きすることを想定していませんでした。

母親には遺留分の権利があります。話し合いの末に遺留分相当額を母親の介護費用として配分することで決着しました。

事例(2)一人息子への配分を想定しなかったYさん

嫁姑問題で息子夫婦と疎遠になっていたYさんは、老人ホームに入った後、遺言書を次のように書きました。
「息子〇〇には財産を残さず、遺産の大半は〇〇社会福祉センターに寄付し、残額を友人のAさんとBさんに均等に配分する」

しかしその後、息子夫婦との関係がかなり修復されます。遺言書を書きなおそうかと考え始めた矢先、Yさんは心筋梗塞で亡くなりました。法律に認められた権利を主張するか、母親の社会貢献への気持ちを優先させるかは、全財産の半分を取り戻す権利がある息子さんの判断に委ねられることになりました。

配偶者の老後が心配な方が考えるべきポイント

自分亡きあとの配偶者のことを心配し、子どもがいても、「妻(夫)に全財産を残す」と遺言書に書く方が多くおられます。愛情のこもった素晴らしい遺言書だと思う子どもたちもいるでしょう。

ただ、子どもたちにお金が必要だったり、先妻(先夫)の子がいたり、妻(夫)に多額の固有財産があって税務対策が必要な場合など、子どもへの配分が必要なケースもありますので、十分な配慮が必要です。

遺言執行者の指定がないために相続が泥沼化するケースも

遺言書の目的は作成することではなく、内容の実現です。そのためには、様々な手続きが必要です。まずは、遺産を調査して、次に、預貯金、株式、不動産などを指定された相続人等に名義書換したり、現金化する手続きがあります。また、指定された金額、あるいは割合で現金を引き渡すなどの一連の手続きもあります。

このような手続きを行なう人を「遺言執行者」と呼びます。公正証書遺言では、遺言執行者を指定するのが通例です。しかし、自筆で遺言書を書く人は、一般的に遺言執行者を指定していないケースが多いようです。その場合、執行手続には以下の2つの方法があります。

(1)相続人が家庭裁判所に遺言執行者の専任を申し立て、選任された者が執行する
(2)相続人全員が協力して手続きを行なう

一般的に多いのが(2)の方法です。この場合、遺言の内容に不満を持った相続人から手続きの協力が得られないばかりか、邪魔をされることも多々あります。

自分が適任だと思う人を遺言執行者に指定できる

では、誰が公正な遺言執行者になれるのでしょうか。民法では、遺言書を作る人が、自分の遺言を執行してもらう人を自ら指定できると定めています。つまり、自分が最もふさわしいと思う人を遺言執行者に指定することができるのです。

例えば、Aさんは「全財産を相続させる」妻を遺言執行者に指定しました。この方法は合理的ではありますが、公平性、中立性という点で、他の相続人から疑念が出る可能性もあります。また、執行手続きに不慣れな妻にとって相当な負担になります。

信頼できる親族、友人などを遺言執行者に指定することもできますが、相続財産の配分には複雑な法律手続きが必要なケースもあります。そうしたことを考えると、財産管理の知識と経験が豊富で、法律にも明るく、相続人に対して中立的な立場の人が適任といえるでしょう。

専門家に遺言執行者を依頼する方法

法律に明るく、相続人に中立の立場と言えば、弁護士などの法律の専門家が頭に浮かびますが、もう1つの選択肢として、信託銀行や信託会社を活用する方法もあります。

信託銀行や信託会社は遺言執行業務を引き受けてくれます。会社組織のなかで遺言執行業務を引き受けますから、個人の専門家のように、健康や年齢などの事情で遺言執行ができなくなる心配もないでしょう。