オランダに「ポストコード・ロタリー」という宝くじがあるのをご存じでしょうか。普通の宝くじと違って、当選は郵便番号ごとに決まります。但し、お金を受け取る権利があるのは、当選した地域の住人のうち、事前にくじを買っていた人々だけ。毎月定額の掛け金が引き落とされます。オランダの宝くじの中では最も人気があるといいます。

人気の秘密は、毎月定額購入という手軽さに加え、富を逃した場合の悔しさのようです。もし、自分のエリアが当選したのに、くじに申し込んでいなかったら、同じ町内の人が大金を得るのを目の当たりにすることになる。それはイヤなのでつい申し込んでしまう、ということのようです。人は近いものほど興味を持つし、自分と比べて嫉妬や闘争心など、強烈な感情を覚えるものです。

最近、民族間の対立に関するニュースが目立っています。先週アメリカ南部で起きた警官と黒人住民の痛ましい対立事件は、今や憎悪の連鎖の様相を呈しています。先月のイギリスの国民選挙でも、移民受け入れへの反発が原動力となり、EU離脱が選択されました。

しかし、そもそも米国では、現職大統領がアフリカ系ですし、英国では、今年5月に、ロンドンでイスラム系の市長サディク・カーン氏が当選しています。これまでも、優秀な移民がアメリカやイギリスの経済成長を支えてきました。このように、都市部で働く高官が異なる人種や民族であっても感情的に問題にはならない。遠い存在だからです。

ところが、近所に住む異民族の人々と直接接触し、彼らの楽しそうな生活を目の当たりにしたりすると、「ポストコード・ロタリー」の法則から、とたんに反感を抱くようになるようです。

人口減少が進む先進諸国では、成長持続のための移民の受け入れが今後ますます大きなテーマになるでしょう。しかし、それが紛争の火種になれば本末転倒です。世界的に身近な存在になりつつある"異分子"に反感を覚えるのではなく、尊重し合う気持ちが求められます。汝の「隣人」を愛せるかどうか...民族間の融合を願うばかりです。

マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那