3月5日、温家宝首相は第11回全国人民代表大会(全人代)で政府活動報告を発表しました。報告では、2012年の政府活動の最優先課題を2011年の物価安定から経済成長に戻すことが明らかになりました。ただ、経済成長は安定的成長であることが強調されています。具体的には2012年のGDP(国内総生産)成長率の目標が、2011年の8%から7.5%に引き下げられました。わずか0.5ポイントの引き下げですが、8%以下の目標に設定されたのは8年ぶりです。この発表を受け、先週前半の中国株は下落しました。8%成長の目標が続くであろうと市場では思われていたからです。また、中国経済のスローダウンは世界経済のスローダウンにもつながりますので、世界的に株価が調整するキッカケともなりました。

さて、物価安定は経済成長に次いで2番目の政府活動課題となったわけですが、中国の2012年の消費者物価指数(CPI)の上昇率は2011年と同じ4%程度に設定されています。そして、このCPIの改善により、先週後半は反発に転じました。3月9日に、2012年2月のCPIが発表されたのですが、1月の前年同月比4.5%増から大きく下がり、3.2%増となったのです。もちろん、1月のCPIでもコメントしましたとおり、2011年の旧正月は2月であり、2012年の旧正月は1月であるため、2012年2月のCPI成長率の鈍化は予想されていたことだったのですが、市場予想よりもさらに若干低く着地しましたし、政府目標の4%、1年物定期預金金利の3.5%を共に下回ったことから好感され、発表後に株価は上昇しました。インフレの落ち着きは金融緩和・景気刺激策が実施される可能性が拡がることを意味します。

ちなみに、その他に発表された方針についてですが、まず、都市部の新規雇用は2011年と同じ900万人以上に、失業率を4.6%以内に抑えるとのこと。また、最低賃金の引き上げや高額所得者の課税強化などの所得分配によって、中・低所得層の収入増加及び格差の削減を図る方針です。輸出入の目標成長率は前年比10%増に設定され、国際支出状況を継続的改善させていきます。さらに、個人消費の拡大は経済成長の牽引役として引き続き重点がおかれています。先週はGDP成長率の引き下げが相場下落のキッカケとなったわけですが、安定的経済成長は中国の長期展望にプラスですし、ちょうど株価が調整しそうなタイミングで発表された側面もあります。CPIの落ち着きで既に中国本土株は大きく戻しており、先週は良い意味での健全な調整になったのではないかと思います。