レーバーデイ「アノマリー」
『8月下旬のジャクソンホール会議が終わり、そして毎月初め恒例の注目イベントである米雇用統計発表が終わっても、米ドル/円は方向感の乏しい小動きに変わりがなかった。これだけ手掛かり材料があったにもかかわらず方向感の出なかった米ドル/円だけに、この小動きはまだ当分続きそうだ、そんな諦めムードが支配的になる中で、ところがいよいよ米ドル/円は大きく動き出したのだった―。』
これは、最近の米ドル/円について市況解説したものではありません。そうではなくて、ちょうど1年前の米ドル/円の動きをみて、解説してみたものです。そんな再確認が必要なほど、最近の米ドル/円と1年前の米ドル/円は似た動きとなっています。
2020年の米ドル/円も、8月下旬のジャクソンホール会議や9月初めの米雇用統計といった注目材料を経てなお、それまで約1ヶ月続いた105円台前半~107円中心の方向感の乏しい小動きは変わりありませんでした。
ところが、毎年9月の第一月曜日と決まっているため、2020年の場合は9月7日だった米国のレーバーデイが明けてから間もなく、米ドル/円はジワジワと下落が拡大し、約1ヶ月続いたレンジを割り込むと104円割れ近くまで一段安となったのでした(図表1参照)。私が冒頭に述べたのは、そんな1年前の米ドル/円の市況解説だったのです。
ただ、このようにレーバーデイまでは小動きが続いたものの、レーバーデイ明けからは一転して一方向に大きく動き出したのは、2020年だけではありませんでした。2019年も、その前年の2018年も、米ドル/円はレーバーデイを前後して小動きから一方向へ大きく動き出しました(図表2、3参照)。
レーバーデイ明けから相場は一方向に大きく動き出すー、これは米ドル/円に限ったことではなく、株式相場なども含めて、金融市場では比較的よく知られた「アノマリー」の1つです。
「アノマリー」とは、論理的な説明が困難ながら、頻繁に繰り返されるパターンといった意味で基本的に使われます。といったことからすると、この「レーバーデイ・アノマリー」の理由を考えるのは矛盾するかもしれません。
ただ一般的には、以下のような理解が基本でしょう。米国のレーバーデイは、欧米においては実質的な夏休み明けと位置付けられるため、夏休み明けでトレードを本格再開し、その上リスク許容度にも余裕があるため、ポジションを比較的長く維持することから、これまで見てきたようにトレンドが出やすくなったのではないでしょうか。
以上のように見ると、ここまで米ドル/円の小動きが続いたことは、基本的には「いつものこと」であり、そしていつも通りならレーバーデイも明けたことでそろそろ一方向に大きく動き出す可能性が注目されそうです。
米ドル/円は7月前半からすでに2ヶ月も、109~110.5円を中心とした狭いレンジで方向感のない小動きが続きました。基本的に、小動きが長く続くほど、相場のエネルギーが溜まり、小動きの終わりとともに、溜まったエネルギーの発散により一方向に大きく動く可能性が高まります。
では、米ドル/円は小動きのレンジを米ドル高、米ドル安のどちらの方向に抜けていくことになるでしょうか。それを考える上での手掛かりの1つは米金利でしょう。2ヶ月続いた米ドル円の小動きは、日米金利差とほぼ重なる推移でした(図表4参照)。
その意味では、「いつものこと」となったレーバーデイにかけての米ドル/円の小動きでしたが、今回の場合、それは日米金利差、とくにその主役である米金利に方向感のない小動きが続いたことで正当化されたともいえそうです(図表5参照)。ということからすると、米ドル/円の新たな方向の鍵は、米金利が上がるか、下がるか、どちらに方向性が出てくるかが手掛かりになるでしょう。
そしてもう1つ注目されるのは株価の動きです。米国株、たとえばNYダウはレーバーデイをはさみ5営業日続落となりました(図表6参照)。これには、レーバーデイ明けで実質的な夏休み明けからトレードを本格再開したトレーダーが、まずはショート戦略を試している影響もあるのではないでしょうか。
ちなみに2020年は、レーバーデイを挟み、NYダウは最大1割の下落となりました。その意味では、2020年のレーバーデイ明けから米ドル/円が一段安に向かったのは、そんな米国株の下落に連れた面が大きかったのでしょう。
さて、約2ヶ月続いた小動きから、米ドル/円が109~110.5円のレンジをどちらに抜けていくか。以上見てきたことからすると、予め米ドル高、米ドル安といった方向感を決めるより、米金利や米国株の動きを見ながら、レンジを抜けた方向にしっかり付いていくといった考え方が基本になるのではないでしょうか。