米ドルは売り圧力が優勢に

市場が大いに注目していた米連邦準備制度理事会(FRB)の年次シンポジウムにおけるパウエルFRB議長の講演(オンライン方式)内容が伝わってきました。

市場は「ほぼ予想通り」というよりも、むしろ「想定したほどタカ派的ではなかった」と受け止めた様子で、とりあえずその内容を受けて一旦米ドルは売り圧力に押されることとなりました。

なかでも最も重要と思われたのは、テーパリングを開始する可能性について「それは直接的な利上げのへのシグナルではない」、「債券の新規購入が止まっても、これまで購入した資産が緩和的な金融環境を支える」と、あえて念を押したことでしょう。

もともと分かりきったことではありますが、現行の資産購入策はパンデミックが及ぼす影響への緊急対応措置だったわけで、まだワクチンの存在すらなかった頃にスタートしたものです。まして、テーパリングが始まってもしばらくは資産購入が続きますし、それが終了しても積み上がったFRBの資産が縮小するわけではありません。

それは今後も米国の景気回復を後押しするでしょうし、懸念されている米雇用情勢の回復の遅れやデルタ変異株の感染拡大の状況も、そう遠くない将来において着実に改善し始めるものと見られます。

既知のとおり、9月上旬には遅い州でも雇用保険手当ての上乗せ給付が全面的に終了する上、学校の新学期もスタートします。そうしたことから、求職活動を再開する向きが一気に増え、結果として米雇用者数も急増する可能性が高いと見られます。

また、バイデン米政権が「3回目のワクチン接種を9月にも開始する」としていることや「ワクチン接種を採用の条件とする求人が急増している」ことなどにより、そう遠くない将来において米国内の感染拡大がピークアウトする可能性も高いと思われます。

もしそうであるならば、やはり今後も米ドルの下値は堅いと見るのが妥当でしょう。よって、基本的に米ドル/円の押し目は買い、ユーロ/米ドルの戻りは売りの算段で臨みたいところであると思われます。

1.18ドル処の節目をクリアに上抜けるかどうか

今回のパウエルFRB議長発言を受けて、ユーロ/米ドルが8月初旬からずっと上値を押さえられていた21日移動平均線を上抜け、一時1.18ドル台を回復したことは事実ですが、それは目先のストップロスが巻き込まれた結果でもあります。

そこで、まず今週は1.18ドル処の節目をクリアに上抜けるかどうかを見定めておきたいと考えます。

ユーロ/米ドルに多少の上値余地が生じるとすれば、それは1つに原油価格との絡みで英ポンド/米ドルが一段の戻りを試す展開となった場合でしょう。

実際、先週末のWTI原油先物価格は一時69ドル台(=1バレル)を回復する場面があり、一週間前から7ドルほど値を上げています。

目先は、熱帯性低気圧「アイダ」がメキシコ湾岸に上陸する見通しとなったことが一因ですが、より重要なのは9月1日にOPECプラスの閣僚級会合が開かれる予定となっていることです。

同会合では、一段の減産縮小に慎重な意見が多く出てくる可能性があり、少々先高観が強まり始めていることは見逃せません。

仮に原油価格が一段の戻りを試す結果となれば、英ポンド/米ドルが1.39ドル処を試す展開となり、連れてユーロ/米ドルも一時的に1.185ドルあたりまで値を戻す可能性があると見ます。とはいえ、そこは基本的に戻り売りで臨みたいところです。

今週9月3日に発表される8月の米雇用統計が前回(7月)と同様もしくは前回以上に強い結果となる可能性は大いにあり、ここはいたずらに米ドルを積極的に売り込むことも躊躇われます。

米ドルを買い戻す動きが再び強まれば、米ドル/円は改めて110円台の値固めから、少なくとも直近(8月11日)高値=110.80円処を試す動きとなってもおかしくはないものと思われます。

もちろん、米雇用統計の発表を控え、それまでは再び様子見ムードが強まりやすくなることも心得ておきたいところです。