普及期に入った太陽光発電

脱炭素に向け再生エネルギーへの移行が本格化し、グローバルで太陽光発電の普及が進んでいます。金融庁 サステナブルファイナンス有識者会議(2021年3月25日)の『脱炭素に向かう世界』(※1)という資料によると、世界の累積太陽光発電設備容量は2020年時点で710万ギガワット(GW)となっており、2010年時点の41万GWの17倍になりました。

太陽光パネルの発電能力の向上と量産によるコストダウンも進み、この間に世界の太陽光発電の加重平均発電コストは9割低下しました。大量生産によるコスト低減は巨大な設備を必要とする原子力発電や火力発電にはない強みとなっています。

経済産業省資源エネルギー庁のエネルギー調査会が7月12日に公表した「発電コスト検証に関するこれまでの議論について」では、2030年に新設の太陽光発電設備を建設・運転した場合のkWh(キロワットアワー、1,000ワットの電力を1時間使ったときに使用した電力量)当たりの発電コストは事業用で8円台前半~11円台後半、住宅用で9円台後半~14円台前半と見積もっています。事業用の太陽光発電は原子力の11円台後半~、陸上風力の9円台後半~17円台前半を下回っています。

出所:経済産業省「発電コスト検証ワーキンググループ」資料を基に株式会社QUICK作成

太陽光発電システムで重要なパワーコンディショナー

太陽光発電パネルによって生み出された電力はそのままでは利用することが出来ません。電力会社から送られてくる電気は通常「交流」ですが、太陽光パネルで発電できるのは「直流」のためです。パワーコンディショナー(パワコン)はPower Conditioning Systemの日本語略で「直流」の電気を「交流」に変換する役割があります。現状ではシリコン半導体ベースのパワコンが主流ですが、今後は次世代化合物半導体を用いたパワコンの需要が広がると目されています。

SiC(炭化シリコン)やGaN(窒化ガリウム)などの次世代化合物半導体を用いたパワコンはシリコン製に比べて、低損失で電力変換時のロスが少ないという特性を有しています。太陽光発電システムは家庭や工場の屋根などに設置する場合もあり、設置や耐荷重の側面から小型・軽量化が求められています。次世代化合物半導体製パワコンは性能の高さにより、小型軽量化も可能なことから今後さらに需要が拡大すると期待されます。

太陽電池製造装置のエヌピーシー、パワコンの富士電機、安川電機に注目

出所:株式会社QUICK作成

エヌ・ピー・シー(6255)は、太陽電池モジュールの製造装置を手掛けています。特に世界大手の太陽光パネルメーカー、米ファースト・ソーラーとの関係が深く、売上高の8割程度を占めています。米国のバイデン政権は中国などからの輸入パネルに課している関税の継続を決定しており、業界の自国内での成長を促しています。カリフォルニア州では新築住宅には太陽光パネルの設置が義務付けられており、他の州でも同様の政策が審議されています。

株価は今期の減益見通しやマザーズ市場の低迷から1月に付けた年初来高値を約3割下回っていますが、中長期での業績拡大の期待から巻き返しの余地がありそうです。

安川電機(6506)は精密装置で用いられるACサーボモーターやロボットの世界大手として知られています。また電力の変換に用いられるインバーターやパワコンも手掛けています。12年には世界で初めてGaNパワー半導体を搭載したパワコンを開発するなど早くから次世代化合物半導体を用いた製品の研究開発を進めています。

足元の受注環境も中国などでの半導体、再生エネルギー向けなどがけん引して好調を維持しており、2月に付けた年初来高値6080円を再度試す場面もありそうです。 

重電大手の富士電機(6504)はパワー半導体による利益けん引が期待されています。再生エネルギーへの移行が、車載向けやインフラ向けのパワー半導体デバイス、電力システムの追い風となっています。またSiCを搭載したメガソーラー向けのパワコンなども手掛けています。

足元の株価には上昇一服感もありますが週足ベースでみると上向きの26週移動平均線を支えに再度上昇トレンドへの回帰も期待出来そうです。

 

(※)出所:金融庁 サステナブルファイナンス有識者会議(2021年3月25日)『脱炭素に向かう世界』(公益社団法人自然エネルギー財団作成)https://www.fsa.go.jp/singi/sustainable_finance/siryou/20210325/04.pdf