介護のはじまりとは?

介護が必要となるきっかけは様々ですが、なかでも病気や怪我での入院が引き金となることが少なくありません。病気や怪我で倒れると、通常「急性期病院」に入院します。具体的な入院期間が定められているわけではありませんが、長居はできません。病院が得られる1日当たりの診療報酬は、入院後、段階的に引き下げられる仕組みになっているからです。つまり病院側からすれば、長期で入院されると利益が少なくなるのです。

リハビリ専門の病院などに転院できるケースもありますが、自宅に戻るとなると、介助や介護が必要となります。短期間の入院でも足腰が弱くなることもあります。こうして、本人は「退院できる!」と喜ぶのに対し、家族は「これから、どうしよう…」と不安を抱えるケースが少なくありません。

入院時の悩みは「医療相談室」へ

医師などから退院の話が出てきたら、すぐにでも行動を開始してください。本人が動けないなら、家族の出番となります。

退院後の行先としては、大きく3つの選択肢があります。
(1)他の病院に転院
(2)自宅に戻る
(3)施設に入居

まず、退院後にどのような医療的ケアが必要になるか医師に聞きましょう。継続して治療やリハビリが必要なら、転院が必要かどうかを確認します。
 
医師に聞きにくい場合や、具体的な転院先を知りたい場合は、相談室を活用しましょう。ある程度の規模の病院では、「医療相談室」や「地域連携室」などと呼ばれる部門を設けています。そこでは医療ソーシャルワーカーと呼ばれる相談員が在籍しています。転院のことだけでなく、医療費のこと、退院後の生活面など幅広い相談に対応してくれます。
 
通常、転院しないなら自宅に戻ることになります。けれども、もし1人でトイレにも行けないような状態ならば、退院と同時に介護が必要となります。自分でトイレには行けるとしても、食事や洗濯をどうするかなど検討が必要です。考えないままに退院してしまうと、生活がまわらなくなります。

そんな時、子どもがいる方は、思わぬ方向にことが進むケースがあります。子どもが「介護をしなければ」と離職したり、逆に「在宅介護は無理だから」と勝手に施設入居の話を進めてしまうこともあります。このような事態を防ぐためには、自分はどうしたいかを考え、元気なうちから家族と話し合っておくことが大切です。

「地域包括支援センター」に相談しよう

自宅に戻るなら、その後の療養や介護について具体的に考えましょう。しかし、多くの場合、「介護のことは何もわからない」状況だと思います。ですので、介護のことは、「地域包括支援センター」に相談してみると良いでしょう。自治体が設置しており、おおよそ中学校区に1ヶ所あります。住所地ごとに担当のセンターが決まっているので、所在が分からない場合、役所に聞けば教えてくれます。

地域包括支援センターでは介護のことについて相談できるのはもちろん、介護保険の申請もサポートしてくれます。自治体が行う介護保険以外のサービスについても申し込めます。入院中に申請すれば、認定のための調査員が病院まで来てくれます。

「退院してからゆっくり考えたい」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、お勧めできません。なぜなら、介護保険を申請してから結果が出るまで1ヶ月ほどかかるからです。「支援」や「介護」が必要だと認定されれば、退院後に、スムーズにホームヘルプサービスなどを利用できます(結果が出るまでに退院となった場合には、暫定的にサービスを利用できるので窓口で相談しましょう)。

また、退院後の生活に備えて、住まいの段差を撤去したり手すりを備えたりすることもできます。介護保険には「住宅改修サービス」があり、20万円分まで利用できるのです(自己負担は1割、2割、もしくは3割)。

覚えておきたい「老人保健施設」

慌ただしく退院の話が出てくると、先のことを決断するゆとりがない場合もあります。そんな時に利用したいのが「老人保健施設」です。退院となったけれど、「まだ自宅に戻る自信がない」といった場合に、3ヶ月間程度入居してリハビリなどを受け、在宅復帰を目指します。介護保険で入る公的な施設で、対象は「要介護1」以上です。公的な施設ですので、所得が低い場合は費用の軽減も受けられます。

3ヶ月あれば自分でできることも増えるかもしれません。もし、本格的に施設に入ることを検討する場合も、探すための時間のゆとりが生まれます。期間限定で入居する施設ですので、空きがなくても少し待てば入居できることが多いです。具体的な候補については、病院の医療ソーシャルワーカーに相談してください。

いま元気でも、介護は“突然”やってきます。まずは、介護が必要になったら、自分はどこでどのように暮らしたいかを考えておきたいものです。自分らしく生きるうえで、とても大切なことだと思います。