買収防衛策を廃止する企業が増えています。今回の記事では、その理由と、背景にあるアクティビストなど株主と企業の関係の変化について解説します。

買収防衛策とは

買収防衛策とは、企業が敵対的買収をされないように導入する対策のことです。買収防衛策には、買収のターゲットにされないようにする「予防策」と、ターゲットにされた後の「対抗策」の2種類があります。買収防衛策の予防策としては、株主の安定化が日本では一番多く行われています。具体的には、系列企業や取引先、もしくは従業員持株会に自社株を保有してもらう手法です。

一方、敵対的買収の対抗策としては様々な手法があります。代表的なものとして、買収された時に株主が有利に新株を購入できる「ポイズンビル」や、逆に買収を仕掛ける「パックマンディフェンス」などがあります。ライブドアがフジテレビに買収を仕掛けた2005年以降、日本では買収防衛策を強化する企業が増えました。

買収防衛策を廃止する企業が増加

しかし、買収防衛策を導入している企業は、ピークだった2008年の569社から2019年9月末時点では328社と半分近くに減りました。しかも、買収防衛策を廃止した企業は348社にのぼり、導入企業を上回りました。なぜ買収防衛策を廃止する企業が増えているのでしょうか。

多くの外国人投資家から、買収する価値がないにもかかわらず、日本企業の多くは買収防衛策を維持しているとみなされています。また、企業が買収防衛策を継続しているか、廃止しているかによって、株主を重視している企業かどうかを判断している機関投資家もいます。

買収防衛策は敵対的買収を防ぎやすくしますが、このように企業価値を低下させたり、株主に不利益を与える可能性もあるため、廃止する企業が増えているのです。

ただ、買収防衛策を廃止する企業が増えているものの、まだ300社近くの上場企業が買収防衛策を維持しています。国内では、買収防衛策に原則反対する運用会社と、一定の要件を満たせば賛成する運用会社があります。外国人投資家はほとんど買収防衛策に反対するので、海外の機関投資家比率が高い企業ほど、株主総会における買収防衛策の賛成率が低くなります。

買収防衛策としての株式持ち合い

買収防衛策の予防策として、「株式持ち合い」があります。株式持ち合いとは、2つ以上の企業がお互いに相手の株式を所有することです。株式持ち合いは、「政策保有株」とも言われています。

2018年6月に改定されたコーポレートガバナンス・コードでは、政策保有株に関する記述が厳格化されました。その中で、「上場企業は政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を行うための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである」、「上場企業は政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行うべきではない」と規定されています。

かつての日本企業は、営業上の関係を維持することや、敵対的買収の防衛策として、株主持ち合いが普及していました。しかし1990年代以降、企業改革の流れから株式の持ち合い解消が進み、政策保有株式は減少傾向にあります。コーポレートガバナンス・コードでは、政策保有株式の保有は、株主のモニタリングの有効性や企業の経済合理性を損ねる懸念があるため、政策保有株を保有している理由を明確に説明すべきである、としています。

変わる株主総会

7月6日付の日本経済新聞では、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が導入されて6年が経ち、「株主総会は経営者と株主が互いの主張をぶつけ合う真剣勝負の場に変わった。株主提案は倍増し、会社提案に対して2割超の反対も相次ぐ。形式にとらわれず両者が真正面から対話し、企業価値を高めるための模索が始まっている」と報じています。

さらに同記事では、2021年6月18日のエーザイの株主総会について、「(6月)7日にアルツハイマー型認知症治療薬が米当局から承認され、10日間で時価総額は1兆円以上増えた。株主から称賛を浴びるかと思いきや、内藤晴夫最高経営責任者(CEO)再任への賛成率は67%と、2020年から4ポイント低下した。3分の1の株主が反対したことになるが、一部の株主が問題にしたのは、買収防衛策だ。統治指針は防衛策について経営陣の保身が目的になってはならないとする。株主の意思確認がないエーザイの防衛策は、株主の権利が制限されるのではと懸念がでている。株主の業績や株価が好調でも、統治体制に問題があるとすれば、総会で経営トップに反対票を投じるようになった」と書かれています。

持ち合い株式はアクティビスト対策として、もはや有効でない?

過去に株主提案を受けた企業は、買収防衛もしくは株主提案を否決するため、安定株主を増やそうとするかもしれません。しかし企業同士で株式を持ち合う政策保有株は馴れ合いにつながる懸念から、コーポレートガバナンス・コードでは縮減を促しています。そして機関投資家には、2014年のスチュワードシップ・コードにより、株主総会でどのように投票したかを理由付きで個別に開示することが求められるようになりました。

そのため、少数の株式しか保有していないアクティビストの提案でも、企業価値の向上に結びつくような提案であれば、機関投資家も株主総会で賛成するようになってきています。現在のアクティビストは、大量の株式を保有しなくても株主総会で影響力を行使できるようになったのです。

ただ、アクティビストなどの株主と経営者は必ずしも対立関係ではありません。株主総会直前の短期決戦ではなく、年間を通じて継続的に対話する関係に変わってきています。経営者は自らの戦略を株主に説明しつつ、企業価値向上につながる株主提案であれば取り入れ、経営改善を進めていくことが、今後さらに必要になっていくでしょう。