先週の米国株式市場を動かしたのはFOMCだけではない

先週の米国株式市場と言うと、FOMC(米連邦公開市場委員会)一色だった印象があります。加えて6月18日(金)はマーケットで「クアドルプル・ウィッチング・デイ(4人の魔女の日)」と呼ばれる特殊な日だったこともあり、マーケットは大きく動きました。その「4人の魔女」とは、株式先物指数、株式指数オプション、個別株オプション、個別株先物の4つのことで、6月18日はそれらすべての取引期限が満了する日となっており、値動きが荒い日となりました。

この日は1日で8,180億ドル(約90兆円)相当分の株式オプションが期限を迎えたと言われています。そういった意味では、6月18日にマーケットが下げたのは、FRB(米連邦準備制度理事会)のテ―パリングや利上げ政策を巡る不安感だけでなく、テクニカルな特殊要因も働いていたということを忘れてはいけません。

着実にニューノーマル時代を迎えている米国

株式市場の指数のボラタイルな推移とは裏腹に、米国では着実にポストコロナ経済のニューノーマル時代に突入しています。

2020年秋から2021年の春にかけて航空会社、ホテル、クルーズ船銘柄が大きく上昇しました。これはコロナ禍において、大きく業績が下落することを先読みし、株価が暴落した後の、ある意味自然なリバウンドです。その後米国経済が回復する局面では業績も回復するだろうという「期待感」で買われ、株価が大きく上昇し、それが現在ひと段落したというところでしょう。

ウォール街のアナリストたちは、今までの業績が回復するだろうという予想から、実際の人の動きの回復を見てのファンダメンタルズに基づいた株式の格上げやポジティブな発言が伺えるようになりました。「期待感」ではなく、実際の業績改善です。そのような見方を裏付けるエビデンスが多くみられるようになっています。

米国TSA(運輸保安庁)によると、先週米国のトップ20の空港での旅客数は2019年の65%のレベルに達したと言います。デルタ航空(DAL)は、今まで停止していた米国からコロナ対策が未だ不十分なアフリカの主要都市へのフライトを再開すると発表しています。これは、ワクチン接種が進んだ米国ゆえの余裕からくるものでしょう。

そのような動きを受け、航空会社はポストコロナの経済正常化の先を見越し、積極的な戦略を取り始めています。6月に入ってサウスウエスト航空(LUV)は、ボーイングに対し、ボーイング737マックス機34機の発注しました。ユナイテッド航空(UAL)は、ボーイング(BA)と航空機発注についての交渉を行っていると言います。その数は少なくとも100機、最大150機の737型マックス機と言われています。

ついに大型ロック・コンサートも100%収容で開催

人の動きの正常化が影響を与えているのは旅行関連企業だけではありません。父の日(6月20日)、ニューヨークの巨大イベント会場であるマディソン・スクエア・ガーデン(運営会社はマディソン・スクエア・ガーデン・エンターテインメント、MSGE)では、ポストコロナで初めて観客を100%収容する形でロック・コンサートが開催されることになっています。チケットは即日完売とのことです。

コンサートの企画、チケットの販売などを行っているライブ・ネーション・エンターテインメント(LYV)のCEOは、今まで経験したことのないペースでコンサートのチケットが売り切れており、供給が需要に追いついていないとテレビのインタビューで話しています。

全米で27のアミューズメント・パークを運営するシックス・フラッグス・エンターテイメント(SIX)ですが、既に第1四半期には、施設への入場者数が、市場予想の60万人に対し、倍以上の130万人となりました。これから夏の旅行シーズンが始まりますが、夏には全ての施設がオープンする予定となっています。

日米に関わらずどの国でも同じでしょうが、コロナ禍でストレスがたまっていた国民は、ワクチン接種が進むにつれ、積極的に外出し始めるのでしょう。

コロナ禍で大きなダメージを受けた企業の株価は、これまでは業績が良くなってくるだろうという「期待感」を織り込みながら上がってきて、今は一休みです。そういった企業の株価が再度動き始めるのは、実際の業績回復に基づいてのタイミングとなるでしょう。来月7月の半ばから始まる第2四半期の決算発表が、次の株価の動きの方向性を決めます。

米国株はFOMCやインフレといったニュースにも大きく左右されますが、明るい消費者マインドに裏付けされる側面も備えていることを忘れるべきではないでしょう。