4月6日、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ(以下、CVC)が東芝に対して買収案を出しました。東芝はアクティビストによる株式の保有比率が高いため、アクティビストの意向を無視できない状況にあり、今後の東芝の動向に注目が集まっています。

そこで今回は、以前の記事で取り上げたエフィッシモ・キャピタル・マネジメントと同様、東芝に投資している大手アクティビスト「キング・ストリート・キャピタル・マネージメント(以下、キング・ストリート)」についてご紹介したいと思います。

キング・ストリートとは?

米投資ファンドのキング・ストリートは運用資産180億ドルを誇る大手アクティビストの1つです。1995年に創業し、ディストレス投資を得意とします。

ディストレス投資とは、財務面で危機に陥っている企業の株式や債券を安値で買い取り、企業の価値が上昇したところで売却する投資手法です。

東芝の増資を引き受けたキング・ストリート

アクティビストが出資する企業には特徴があります。市場環境の変化で業績が伸び悩むなど、マーケットで実力以下の評価を受けている企業です。株主として経営に参加して企業の構造改革を実現できれば、業績と株価が回復するシナリオを描きやすくなります。

キング・ストリートは割安と判断した企業に長期にわたって投資するアクティビストで、米子会社の巨額損失や不適切会計で経営危機に陥っていた東芝の増資に応じました。

東芝は不正会計で自己資本が大きく毀損し、2017年12月に約6,000億円の第三者割当増資を行いました。そして、その多くを引き受けたのがヘッジファンドやアクティビストでした。そして、東芝の株主構成は大きく変わりました。

東芝の外国人保有比率は、2017年3月末の30%から2019年3月末に70%まで高まったのです。キング・ストリートは、それまで日本では存在をほとんど知られていませんでしたが、東芝の増資を引き受けたことで、その名を知られるようになりました。

キング・ストリートは2019年6月の東芝の株主総会で、同社の共同経営者であるブライアン・J・ヒギンズ氏を含む新たな社外取締役を要求する予定だと公表しました。実際の株主提案とブライアン・J・ヒギンズ氏の取締役就任は実現しませんでしたが、社内取締役の2名に対して社外取締約が10人になり(3名が外国人)、東芝の取締役会の体制は大きく変わりました。

東証1部復帰にこだわった東芝

東芝は2021年1月29日に東証1部に復帰しました。米原発子会社の巨額損失で債務超過になったことで東証2部に降格されていましたが、約3年半ぶりの東証1部復帰となったのです。

東証1部のメリットは「優良企業」だと認知されることです。そして、企業の信用力が増すことで、資金調達がしやすくなります。しかし、東芝は半導体メモリー事業を2018年に約2兆円で売却するなど、手元資金は潤沢でした。ですから、東芝が東証1部復帰を目指したのは、アクティビストの影響力を弱めるためではないかと思います。

2021年4月12日付け日本経済新聞には、「QUICKファクトセットのデータによると、東芝の上位10株主のうち6株主をアクティビストが占める。アクティビストの保有株数を合計すると全体の3割強に達する」と書かれています。ちなみに、キング・ストリートは、東芝の第4位の株主となっています。

東証1部に復帰すればTOPIXに連動するインデックスファンドなどからの買いが見込め、アクティビストの影響力を弱めることができます。また、株価が上昇すればアクティビストは東芝株を売却しやすくなり、長期的な視野で東芝株を保有する機関投資家が株主となってくれるとの期待もあるのでしょう。

2019年3月12日付けブルームバーグの記事によると、東芝は2018年6月に7,000億円という巨額の自社株買いを発表しましたが、キング・ストリートはそれでは足りないとして、1兆1,000億円へ増額を要求したとのことです。

業績や株価を高めるよう経営陣に短期的な成果を求めるアクティビストは、危機的状況下の東芝にとってはありがたい存在でしたが、将来の成長を優先させる今となっては、経営陣の悩みの種になっているように思われます。

外国人投資家の影響力が拡大

アクティビストの影響力を弱めたい東芝ですが、今や外国人投資家の保有比率は7割、アクティビストの保有割合は3割となっています。そのため、東芝の経営陣は外国人投資家やアクティビストの意向を重視しなければいけません。

そんな中、4月6日にCVCが東芝に対し、1株5,000円で買い取る買収案を出しました。CVCが東芝の経営陣と合意し、TOB(株式公開買い付け)で応募が集まるかどうかは、アクティビストの判断が大きく影響します。

2017年にキング・ストリートを含むアクティビストが受けた第三者割当増資の発行価格は、1株当たり2,628円でしたので、今回の買収案は約1.9倍の価格提示となっています。しかし、第三者割当増資を引き受けた香港の投資ファンドのオアシス・マネジメントは、5,000円は安すぎるとして6,200円以上が適当だとする声明を発表しています。

2020年4月時点で東芝の第2位の株主であるシンガポールの資産運用会社の3Dインベストメント・パートナーズは、2020年の株主総会で東芝の企業価値は6,560円で、2030年度には27,000円になると主張しています。

東芝を巡る買収案に関しては、他のアクティビストも買収案の作成や買収グループへの参加を検討しています。2017年に東芝の増資を引き受け、現在も東芝の第4位の株主であるキング・ストリートが、今回のCVCの買収案に対してどのような動きを示すのか注目したいところです。