新型コロナウイルスの感染拡大を受け、急速に広がった「非接触」、「リモート」などの“新しい日常”。私たちの生活を激変させた原動力となっているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。実は脱炭素とDXとは切っても切れない関係にあります。

DXは「IT(情報技術)による経営の変革」といった企業のためのものと捉えられがちですが、もともとの意味は「デジタルテクノロジーが生活に及ぼす変化」です。再生可能エネルギーの安定供給から私たちの生活様式の転換に至るまで、DXは脱炭素社会に向けた縁の下の力持ちと言えます。株式市場ではDXの前提となる次世代高速通信規格の「5G」関連銘柄とともに投資家の旺盛な物色が続いています。

政府は自家用車への過度な依存を減らす方針

菅義偉政権は「グリーン成長戦略」で「自家用自動車に過度に依存することのない移動手段を確保」するように取り組むとしています。脱炭素社会を実現するために「日常生活における車の使い方をはじめとした国民の行動変容を促す」のが目的です。電気自動車(EV)などの普及で二酸化炭素(CO2)の排出量を減らせたとしても電池の生産や充電などでCO2は発生するため、車そのものを減らす必要があるとの指摘もあります。

DXによってカーシェアリングやライドシェアリングなど次世代移動サービス(MaaS)や公共交通を充実させるとともに、遠隔医療やリモート学習の普及で人々の移動を減らすことも有効だと考えられます。「MaaS」、「遠隔医療」、「GIGAスクール構想」関連銘柄で、菅政権が発足した2020年9月16日以降の上昇率が高い上位10社は以下のようになります。

【図表1】 菅政権発足以降、上昇率が高い「MaaS」「遠隔医療」「GIGAスクール構想」関連銘柄上位10社
出所:QUICK

遠隔医療・教育が市場のテーマに

首位のケアネット(2150)は14万人以上の医師が会員登録する医療サイトを運営し、製薬会社にオンライン営業を支援するサービスを提供しています。医師会員ネットワークは、言わば遠隔医療のインフラとなっており、他社との連携も進んでいます。

MaaS関連ではデンソー(6902)が3位に入りました。乗用車やバス、トラックなどの移動手段をクラウド上でつなげ、仮想のデジタル都市空間で現実の交通社会を再現する技術で最適な移動手段を提供するサービスを手掛けています。GIGAスクール構想ではパソコンなどの情報機器卸売事業が好調なダイワボウホールディングス(3107)が6位に入りました。

意外?5Gで高まる水晶の需要

DXの屋台骨を支えるのが5Gです。「5th Generation」の略で、ほぼ10年ごとに世代交代してきた携帯電話の通信方式の第5世代という意味です。最高伝送速度は現在主流の「4G」の100倍で、2時間の映画を3秒でダウンロードできるといいます。通信のタイムラグがほとんど発生せず、ロボットや建設機械の遠隔操作への応用も期待されます。5Gが普及すればDXは加速度的に広がりそうです。「5G」関連銘柄の上昇率上位10社は以下の通りです。

【図表2】 菅政権発足以降の上昇率が高い「5G」関連銘柄上位10社
出所:QUICK

首位は日本電波工業(6779)です。安定した周波数を維持し、電子機器の様々な機能の動作を正常に動かすうえで欠かせない水晶デバイスを手掛けています。水晶デバイスはスマートフォンのほか、パソコンや自動車など幅広い製品に搭載され「産業の塩」とも称されます。

8位のリバーエレテック(6666)、10位のエプソン(6724)も水晶デバイスを製造しています。2位はアドバンテスト(6857)です。完成した半導体チップの性能を試験する「テスター」を手掛けています。5G通信などへの対応で検査に時間がかかるようになり、複数台を並行して稼働させるためテスターの需要が強まっています。

今回は「MaaS」、「遠隔医療」、「GIGAスクール構想」、「5G」関連銘柄の菅政権発足以降の上昇率上位をご紹介しました。EV関連と5G関連の銘柄に共通するのが「部品メーカーが上位に入りやすい」という傾向です。一概には言えませんが事業領域が広くない企業が手掛ける製品の引き合いが強まると業績の変化率が大きいため、物色が集中しやすい傾向があります。5Gの場合は水晶デバイスがその例です。

多くの事業領域を持つ企業は、仮にテーマに沿った事業を有していても、他の事業の不振などで成長が見えにくくなってしまう場合があります。特定のテーマを投資の手がかりとする際の参考にしてください。