菅義偉首相が就任後初となる2020年10月の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言したのを受け、株式市場では「脱炭素社会」実現のために必要な技術などを持っている銘柄の物色が活発です。石油や石炭といった化石燃料の利用を前提とした文明を一変させる決断は、日本の産業構造にも転換を迫っています。世界でも日本に先駆けて欧州などが実質的に温暖化ガス排出の実質ゼロを目標とする「カーボンニュートラル」の目標を掲げており、脱炭素は世界的な潮流となっています。今回は脱炭素の背景や歴史を読み解いていきます。

 

頻発する異常気象に危機感

世界が脱炭素に雪崩を打って向かうのは、頻発している熱波や干ばつ、豪雨などの異常気象の一因に気候変動があるとの危機意識が共有されてきたためです。気象庁によると20年の世界の平均気温(注1)は基準値(注2)に対し0.45℃高く、1891年の統計開始以降で最も高かった2016年に並びました。長期的にみると世界の平均気温は上昇基調で100年あたり0.75℃の割合で上がり続けています。二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスによる気候変動を防ぐにはCO2排出を世界で大幅に減らさなければいけないとの認識が広がり、脱炭素に向けた各国の対策が促されています。

(注1)陸域の地表付近の気温と海面水温の平均
(注2)1981~2010年の30年平均
【図表1】
出典:気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_wld.html)

対策促すパリ協定

脱炭素に向けた世界的な合意も背景にあります。トランプ前米大統領が離脱を表明し、バイデン大統領が2021年1月の就任直後に復帰を決めた「パリ協定」です。15年にフランス・パリで開かれた第21回国連気候変動枠組み条約国会議(COP21)で採択され16年に発効しました。協定では世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べ1.5℃以内に抑えるため、50年ごろに世界の温暖化ガスの排出を「実質ゼロ」にする必要があるとされています。実質ゼロとはCO2などの温暖化ガスの排出量から、森林などが吸収する量を差し引いてゼロにするという意味です。欧州連合(EU)が19年に先行して50年実質ゼロの目標を立て、現在は120以上の国・地域が賛同しています。

【図表2】
出典:EDMC/エネルギー・経済統計要覧2020年版

脱炭素がコスト増から成長戦略に

これまで経済成長を阻むとみられていた化石燃料からの脱却が、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)といった脱炭素テクノロジーの発達により経済成長を促すとの発想の転換が進みました。各国政府は今や代替エネルギーやCO2を排出しないEVなどの開発・普及が新たな雇用を生み、富の源泉になるとみています。税制優遇策などの導入で企業努力を後押しし、自国の産業競争力を高めようとしています。

脱炭素社会への道のりは欧州の一部や中国などがガソリン車の新規販売の禁止を表明するなど、産業や生活に大変革を迫る「地殻変動」を伴います。脱炭素テクノロジーを手にした企業は力強く成長し、化石燃料への依存度が高い企業は対策に追われ収益体質が悪化するかもしれません。株式市場では投資家が脱炭素社会の「勝ち組」を見極めようと、物色の矛先が様々な会社に向かっています。「再生可能エネルギー」や「EV」、「DX」、「水素」など数多くのテーマにまたがる脱炭素、この連載ではいまさら聞けない豆知識や関連銘柄を紹介していきます。