なぜ「円高ドル安」予想が多いのか

2021年の為替展望は「円高ドル安」が大勢のようです。為替変動には様々な要因があります。なかでも、中長期的には「貿易収支による実需への影響」と「日米の金融政策の差」によるところが大きく、この2つの側面から米ドルは安く、円が強くなりやすい状況にあると考えられています。

貿易収支による実需への影響

日本の貿易赤字が増える→円安要因

海外製品を買うために円を売って米ドル買いをするため、円安となります。特に貿易収支は反対売買が起こらない実需ですので、為替市場へのインパクトが大きくなります。

日本の貿易黒字が増える→円高要因

日本企業は輸出により、相手国の外貨を手にします。例えば米国への輸出が大きければ企業が利益として受け取った米ドルが増加します。これを日本企業は円に換える際に、為替市場で「米ドルを売り、円を買う」という取引をします。

つまり、日本の貿易黒字が増えれば円高圧力が大きくなるということです。2020年7月に日本の貿易収支は黒字に転じ、11月まで5ヶ月連続で黒字となっています。この傾向が続くようですと、円買い圧力も続くと考えられます。

対して、米国の2020年11月の貿易赤字は前月比6.1%増の863億5600万ドルで、単月の赤字幅は集計開始以来の最大を記録しています。米国の貿易赤字の拡大は米ドル安の要因となるため、米国側の事情からも円高になりやすいというのが現状です。

日米の金融政策の差

政策金利

コロナ禍において、米国は政策金利を2.5%から0.25%へと引き下げました。そもそもゼロ金利政策であった日本との金利差が急速に縮小したことが、2020年の「円高ドル安」の背景にありました。しかし米国と日本の金利がほぼ横並びとなってしまったことから、政策金利の違いは今後の材料にはならないでしょう。

しかし中央銀行が定める政策金利の他にも、市場には様々な金利が存在します。マーケット関係者が特に注目しているのが、米国債券の利回りです。足元で長期金利と呼ばれる米国の10年国債利回りが1%の大台に上昇したことで、為替市場でも金利を意識した米ドルの買い戻しが入りました。

為替市場は金利動向が全てではありません。しかし、他の材料に大きな違いがなくなってくると、市場金利動向に反応しやすくなってきます。そのため2021年は「日米の金利差」が、注目ポイントとなってくるでしょう。

量的緩和策

では、日米の量的緩和政策を比較するとどうでしょうか。

米国はコロナ禍において、バランスシート(貸借対照表)を大きく拡大させました。2020年3月時点のFRB(米連邦準備制度理事会)のバランスシートは3.7兆ドル程度でした。FRBはこれをさらに減らしていく計画でしたが、コロナ禍の影響でバランスシートは急拡大し、2021年1月には7.4兆ドル(769兆円)にも膨らんでいます。たった数ヶ月でFRBの資産は2倍へと膨張したのです。

FRBはQEと呼ばれる量的緩和策で米国債や住宅ローン担保証券(MBS)などの資産を購入し、その額面の資金を市中に供給する政策を実施しています。これらの資産を大規模に買い入れることで、FRBが保有する資産が拡大しているのです。

一方、日本では2016年9月から日銀による長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、以下YCC)という政策によって、長期金利をゼロ近傍に固定しています。これは、日本国債を購入するボリュームをコントロールすることで長期金利を固定させる政策であり、国債購入量はその時の長期債利回りによって決定されます。

YCCが導入される前は年間80兆円分日本国債を買うことでバランスシートを拡大させてきましたが、現在の国債購入量は年間およそ30兆円に減少しています。

つまり、米国の量的緩和と比較するとあまりにも緩和金額が小さい、というのが現状なのです。YCCを前提とするならば、財政政策により国債を大量に発行しなければ金融緩和とはなりません。にもかかわらず、日本の新型コロナウイルス対策は、事業規模は大きくとも真水とされる国債発行金額が米国と比較してあまりにも小さいことが、足元の円高の一因であるとの指摘もあります。

その是非は別問題として、つまり米国と比べるとお金を「刷り負けている」ことが円高の一因であるという見方です。日本が大規模な財政出動(真水と呼ばれる国債の新規発行部分が重要)に踏み切ることがあれば、円高が止まると思われます。コロナ禍における各国の財政政策には引き続き要注目です。