“せんべい差し入れ”で称賛された岩塚製菓
12月16日から18日にかけての新潟県内の関越自動車道での通行止めは大規模なものでした。関越道を走行中に豪雪に見舞われ、立ち往生することになった車は一時1,000台を越え、実に2日間もの間、立ち往生を強いられた車もあったとのことです。報道によれば、特に積雪量の多かった群馬県水上町では観測史上1位の積雪だったそうです。災害大国と言われる日本ですが、様々な災害があることを改めて思い知らされる大雪でした。
日本は全体の50%が国の豪雪地帯に指定される雪国で、世界的に見てもトップクラスに雪の多い国です。特に北海道、東北、上信越、北陸など豪雪地帯でも都市が多く、世界の豪雪都市ランキングでは日本の都市が上位を占めているほどです。それだけに雪への備えも強く、今回の豪雪でも在来線である上越線は停まりましたが、特に雪の多いところをトンネルで進む上越新幹線は運行を続けていたようです。しかし、自衛隊が出動するなど想定以上の災害であったのは間違いなさそうです。
さて、この雪で多くの車が立ち往生する中、自衛隊や東日本高速道路による支援に加え、新潟の製菓会社が立ち往生で困る運転者たちに提供した支援が話題になりました。新潟県から関東方面にせんべいを出荷していた同社のトラックも今回の立ち往生に巻き込まれていました。高速道路のど真ん中での立ち往生で、食料もない状況でした。そんな中、同社の担当者は運送会社と連絡を取り、積み荷のせんべいを立ち往生中の運転者たちに提供するよう伝えたとのことです。運送会社のドライバーはそのせんべいを周辺の車に配り、感謝の声がSNS上で挙がるなど話題になりました。
そのせんべいを配った会社は新潟県長岡市に本社を置く、岩塚製菓(2221)です。同社は今回配布したせんべいなど米菓が主力の会社です。新潟県は米どころとして知られており、同じく米菓の亀田製菓(2220)やサトウのごはんで知られるサトウ食品(2923)などが上場しています。同じく米菓の会社として越後製菓や三幸製菓も知られています。
岩塚製菓がマーケットで有名なワケは?
岩塚製菓はマーケットでは名の知れた会社の1つです。同社の売上高はここ10年ほど200億円前半にとどまっており、営業利益は最高だった2015年3月期で4.6億円と、特に目立つ会社ではありません。「黒豆せんべい」や「味しらべ」は美味しいお菓子だと思いますが、「柿の種」「ハッピーターン」の亀田製菓、「雪の宿」の三幸製菓と比べると、知名度が劣るのではないでしょうか。その岩塚製菓を有名にしているのは台湾から中国に進出、香港に上場する世界的総合食品メーカー「旺旺集団」に5%程度出資していることです。
旺旺集団のウェブサイトによれば、同社は米菓生産量世界一で日本全体の米菓生産を超えているとのことです。売上高は3000億円を越えており、日本で言うと森永製菓(2201)の1.5倍程度です。岩塚製菓の旺旺集団株は直近決算で560億円の評価で、同社からの配当金収入で実に22.5億円を計上しています。その結果、岩塚製菓のここ数年の決算は以下の通りとなっています。
岩塚製菓における優良資産の存在感
ご覧の通り、岩塚製菓の営業利益は小さい水準ですが、旺旺集団からの配当金が反映される経常利益はかなりの水準になっています。同社の時価総額は240億円ですから、560億円の評価額で、年20億円以上の配当金の得られる旺旺集団株の存在感の凄さが分かります。これもまた優良資産をもった会社の一例で投資対象としても面白い会社でしょう。
旺旺集団の創業者は岩塚製菓に技術指導を仰ぎ、その関係から同社に出資したことが現在の関係につながっています。旺旺集団の上海本部1階には当時の岩塚製菓社長の銅像が置かれているとのことです。
食品会社に見られる意外な資本関係
食品会社ではそのような技術の関係などを介しての出資関係が少なくありません。タカラバイオ(4974)は宝ホールディングス(2531)の中核宝酒造のバイオ部門が独立した会社です。宝ホールディングスの保有するタカラバイオ株は2000億円を超え、宝ホールディングス全体の時価総額に迫っています。鳥越製粉(2009)は時価総額260億円ほどの会社ですが、60億円弱のカルビー(2229)株を保有しています。
非上場会社ですが、「サッポロ一番」で知られるサンヨー食品も岩塚製菓と同様に、香港上場のラーメン製造を中心とする康師傅を持分法関連会社としています。サンヨー食品は売上こそ1760億円と「カップヌードル」の日清食品HD(2897)の5000億円弱と比べると半分以下ですが、経常利益は300億円を超え、日清食品の400億円強に迫る水準です。この経常利益は時価総額が1兆円近い康師傅の貢献によるものです。
サンヨー食品は上場こそしていないものの、「棒ラーメン」で知られる福証上場のマルタイ(2919)に約20%出資しています。サンヨー食品はエースコックを連結子会社にしており、マルタイとの関係も変わりうるでしょう。製菓・乳業を統合した明治ホールディングス(2269)同様、森永グループも再編のニュースが定期的に流れています。アクティビストの活動などもあり、このような資本関係は長い目で見ると解消傾向が進んでおり、そこにはおもしろい投資機会も存在しています。このような「資産株」には引き続き注目したいところです。