みなさん、こんにちは。日経平均株価はついに約29年半ぶりの高値をつけました。まさかコロナ禍の最中に高値を更新するとは全く予想できませんでしたが、それだけワクチン開発への期待が高く、リスクマネーが市場に出回っているということなのでしょう。

急ピッチの株価上昇には警戒感が拭えませんが、株式市場はコロナ禍での社会構造の変化とそれによる成長期待を積極的に織り込み始めたのかもしれません。

「独身の日」セールが記録更新

さて今回、「相場のテーマを読み解く」シリーズとして取り上げるのは「年末セール」です。

先週、11月11日は中国EC最大手のアリババが仕掛けた中国最大のネット通販セールイベント「独身の日」セールの最終日でした。このセール期間中のアリババの取扱高は8兆円に迫り、ネット通販第2位の京東集団(JDドットコム)との2社だけで何と過去最高の12兆円超の流通額を記録したと報じられています。

年末にかけて、米国ではブラックフライデー(2020年は11月27日)、サイバーマンデー(2020年は11月30日)と年末セールが続きます。日本でも、ブラックフライデーセールは少しずつ浸透してきており、ここでも中国と同様に消費の盛り上がりへの期待が高まっていると言えるでしょう。

コロナ禍によって経済活動が大きく制限された2020年でしたが、このようなセールを引き金に消費行動が活性化し、景気拡大に弾みをつけたいところです。当事者である小売業者はもちろん、商品を提供するメーカー、そして政府も年末セールへの期待は大きいものと想像しています。

それだけに、2020年の中国の「独身の日」セールは強烈なインパクトを与えました。前述の通り、記録を更新する規模となったわけですが、最大手であるアリババの流通額においては前年比86%もの拡大となりました。前年まではせいぜい2割強の伸びであり(それでも十分高い伸びですが)、セール規模の拡大に伴い、徐々にその伸びが鈍化してきていたのが実情でした。

そんな中、ここにきて拡大ピッチが急加速した背景には、「コロナ禍において「楽しみ」を我慢せざるを得なかった消費者がその欲求不満をセールで解消したのでは」という見方もあるようです。

外出も抑制気味の生活を余儀なくされていたために、旅行やイベントへの家計支出はかなり減少していたはずです。そこで浮いた資金がセールに向けられた、という構図が考えられます。より正確な分析にはもう少し時間を要することでしょうが、大きな構図としては間違っていないのではと推察しています。

中国はコロナ禍からいち早く経済活動を回復させてきていますが、それでも個人消費はまだマイナス成長下にあり、消費意欲もまだ乏しい状況が続いていました。これは中国に限らず他の国々にも共通する傾向です。そんな中、中国で消費活性化の動きが現れたとなれば、米国や日本でも同様の展開になるのでは…と期待が高まるのも無理はないでしょう。

日本国内ではGo Toキャンペーンといった消費刺激政策が奏功していることは周知の通りでしょう。消費者は娯楽やショッピングを渇望していると考えれば、年末セールはそれに見事にハマるイベントになる可能性も高いのかもしれません。

コロナ禍で見られた新たな特徴

今回の「独身の日」セールで特徴的だったのは、高級ブランドの躍進とライブストリーミングを活用した販売手法でした。やはり売り先に悩んでいた欧米の老舗高級ブランドが出店し、海外旅行に行けなくなった消費者に買い物の機会を提供しました。

そのほか、ライブコマースというWEB上での生配信により商品を訴求するというスタイルも、新しいアプローチでした。米国をはじめとするその他の国の年末セールでも、今後は同様の手法が採られることでしょう。

逆に、このような試みが成功するほど、従来型のリアル店舗を通じた販売手法は大幅な変化に迫られることとなると考えられます。

国内では小売業界において専門店間で少なくない買収劇が起こりつつあります。これらはまさにリアル店舗を持つ小売業界の経営が大きな転換点を迎えていることの証左と言えるでしょう。ネット通販の年末セールの躍進は、逆説的に小売業界の更なる再編を加速させるきっかけにもなるのではないかと予想しています。

先進国でも消費意欲は喚起されるか

一方、「柳の下にドジョウは2匹いない」という指摘もあります。つまり、先進国では景気低迷による先行不安が大きく、セールであっても消費意欲はそれほど喚起されないとの見方です。中国で躍進した高級ブランドも、そこまで先進国で訴求できるのかどうかは確かに議論の分かれるところでしょう。

世界景気の先行きを占う上で、これから始まる年末セールがどこまで盛り上がるのかは非常に重要な指標になるのではと考えています。株式市場は日経平均が約29年半ぶりの高値を超えてきましたが、これが本物なのかどうか。こういった指標も参考にしながら見極めていきたいところです。