任天堂(7974)がおよそ12年ぶりに5万円台をつけた。2008年9月以来だ。この「5万円」という節目はただの節目ではない。2018年年初に4回トライして4回とも跳ね返された、厚い「壁」なのだ。それを今回、12年ぶりに、しかもコロナの最中に抜いたことは大きな意味があると思われる。
コロナの「巣ごもり」はゲーム株に追い風と思われるかもしれないが、実際には違う。ゲーム大手で年初来リターンがプラスなのは任天堂のほかには、ネクソン(3659)とカプコン(9697)だけである。ゲームすべてがよいわけではなく、跛行色が見られる。
今回のコロナ禍では、ゲームというものの価値が改めて見直された面があるだろう。子供たちの学校が休校になり、友達とも会えず、遊べない。でも、そんなとき任天堂のSwitchでインターネットを介してつながることができる。友達とリアルタイムで一緒にゲームを楽しむことができるのだ。スプラトゥーンでともにチームを組んで戦ったり、「あつ森」で集まれたりするのだ。
僕は常々、任天堂はレガシーを持っている、と言っている。任天堂のプロダクトは歴史であり、伝統である。バンダイナムコは「ガンダム」や「アイドルマスター」がある。カプコンは「バイオハザード」。そしてスクエニには、「Final Fantasy」がある。いずれも定番となり固定ファンのついているゲームだが、任天堂のポケモンにはかなわない。社会への浸透度が違う。そして上半期のヒット商品番付の横綱に選ばれた「あつまれ どうぶつの森」、通称「あつ森」だ。これは、もはやSNSのようなものだろう。先日、テレビで見たのは、コロナで結婚式と披露宴が1年延期になってしまったカップルのために、友人たちが「あつもり」の中で結婚式を開いてくれたというものだ。ZOOM飲み会は「リモート」だけど「リアル」だから、それなりに大変だけど、「あつ森」のパーティーは、「リモート」かつ「バーチャル」だから、ずっと手軽にできる。それでも、気持ちを送ったり励ましたりできるなら大変便利である。
単に「空間」を越えるだけではない。どうぶつの森は「時空」すら越える。先日、朝日新聞デジタルでこんな記事を読んだ。札幌で画家として働く24歳の女性が、実家に立ち寄った際にニンテンドーDSの電源を入れて、昔の「おいでよ どうぶつの森」を立ち上げた。最近、「あつ森」をプレーしていることもあって、違いが気になったからだ。
画面に表示されたのは、約15年前、当時9歳だった自分が、未来の自分に宛てて書いた手紙だった。
「みらいの はるかさんへ えの、しごとに、ついていますか? そうだといいな。そうだといいな。まあ。ほかのでもいいけどね。。。いまのじぶんでがんばって★ はるかより」
未来に向けて作文や絵や手紙を書いて、それを収めたタイムカプセルを学校や自宅の庭に埋める - そんなことをした経験はないだろうか。まさに「どうぶつの森」がタイムカプセルの役目を果たした。書いたことすら覚えていない手紙を、不意に見つけた時の気持ちはどんなだったろう。昔の、小学生だった自分が、今の自分の背中を押してくれている。勇気をもらったはずだ。夢を追い続け、それを叶える大切さを改めて感じたはずだ。これが任天堂のプロダクトはもはやレガシーだという理由だ。そういう商品を創り出せる企業はそうざらにない。何度チャレンジしても抜けなかった5万円を抜いた。つぎの節目は上場来高値の7万3200円まで見当たらない。