直近のJ-REIT価格動向と今後の見通し
前回の連載は2月27日であったが、その後のJ-REIT価格は暴落とも言える状態になった。東証REIT指数の下落幅を見ると2月28日に前日比120ポイント、3月9日には同130ポイントを超えた。また翌3月10日の取引時間中や本日(3月12日)の前場も1,800ポイントを割り込む状況となった。
騰落率を見ると3月9日は前日比6.4%下落となった。リーマンショック直後の2008年9月16日、東日本大震災時の2011年3月11日の下落率が共に7.0%であったことからも、新型コロナウイルスがJ-REIT価格に大きく影響を与えていることになる。
このような暴落状態になると下値の目処を示すことが難しい。さらに3月11日の米国市場の動向から投資家は完全なリスクオフ状態になっていると考えられる。その理由として、米国10年債利回りは現地3月11日には低下していないことが挙げられる。
一般的に国債は安全資産とされているが、価格が変動する投資先である。米国のNYダウ平均は直近では現地3月9日と3月11日に急落しているが、米国10年債利回りは3月9日には低下していた。
つまり、株式市場から流出した資金は3月9日には債券市場に流入していたが、3月11日には同様の流れは起きなかったことになる。この点から投資家は、株式市場での売却分を市場への投資ではなく現金として抱える状況になっていると考えられる。
利回りに対しても投資家が関心を示さなくなっているため、J-REIT価格は株式市場と同様に乱高下する展開が当面続きそうだ。少なくても3月中は決算期であるため、2019年からJ-REITの有力な買い手となった生損保の売却が続くことになりそうだ。
投資家が留意すべき点
このような急落相場で個人投資家がまず留意すべき点は、保有銘柄を慌てて売却しないことだ。J-REIT収益は、賃貸契約による安定的な収入に支えられている。大半の一般事業会社とは異なり、サプライチェーンの混乱や個人消費の減少の悪影響に対して賃貸市場は遅効性があるという点を改めて認識しておくべきだと考えられる。
またリーマンショックの時とは異なり、金融機関発の危機状況ではないため借入金の調達金利が上昇する事態にはなっていない。日本の長期金利は低い状態が続いているため、2019年と同様に2020年も借り換えによる金利低下で分配金が増加することになりそうだ。
したがって、新型コロナウイルスの影響を見通せない状況が3ヶ月以上続く場合を除き、J-REIT価格は安定的な収益を背景に早い段階で上昇基調に転じるものと考えられる。一方で3ヶ月経過しても感染の拡大に歯止めが掛からない場合には、J-REIT価格も一般事業会社と同様に戻りが遅くなる可能性がある点は留意しておきたい。
この場合には、J-REIT市場で価格への影響が大きいオフィスビル系銘柄やオフィスビルを組入れいる総合型銘柄に悪影響が及ぶことになるためだ。
次回の連載では、オフィス賃貸市場が新型コロナウイルスによって受ける影響について記載する予定としている。