◆カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した時から気になっていた。「難点がないのが難点、と言いたいほどよくできている」という映画評論家・宇田川幸洋氏のシネマ・レビューを読んで封切り直後に観た。外国映画として初めてアカデミー作品賞を受賞した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』である。唸るエンディングまで展開の妙に引き込まれ一気に魅入ったが、まさかオスカーを獲るとは。

◆「パラサイト(寄生)」と言えば、ウイルスこそ絶対的な寄生体である。ウイルスは形に偏りがなく物質に近い。細胞もなく一切の代謝を行わない。ウイルス単体では増殖することができないが、他の生物に寄生し、その細胞を利用して増殖する。生命の定義が自己増殖するメカニズムだとすればウイルスは生物か?福岡伸一先生は著書『生物と無生物の間』で「ウイルスは生物と無生物のあいだをたゆたう何者かである」と述べている。

◆その肉眼では見えない極小の「何者か」がいま猛威を振るっている。新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が止まらない。決して警戒を怠るべきではないものの、経済や市場に対する過度な悲観も慎みたい。ウイルス感染は春になれば自然と下火になる。生物と無生物の間の「何者か」であっても、自然の摂理には従うのだから。

◆コロナウイルスの脅威は瀬名秀明のSFホラー小説『パラサイト・イヴ』を思い起こさせる。太古の昔から生物に寄生して生き続けた利己的遺伝子が人間の体をのっとって人類に牙を向く恐怖を描いた作品だ。映画やゲームにもなった。ゲームを原案に映画化されたのが『バイオハザード』。生物兵器の研究所内でウイルスが漏洩したことから起こるサバイバルアクション・ホラーだ。今回のコロナウイルス感染渦だが、なにやら『バイオハザード』の現実版のようにも思えてきた。ゲームや映画ならすぐに<ジ・エンド>になるが、現実の社会ではなかなかそういかないところが厄介である。