◆先日、日経新聞に邦訳が載ったマーティン・ウルフ氏のコラムを読んでひっくり返るほど驚いた。「歴史は繰り返さないが、しばしば韻を踏む― この言葉は誤って米作家マーク・トウェインの言葉だとされることが多い。」え?誤って?では、マーク・トウェインの言葉ではないのか?! FT紙の記事だから本当なのだろう。僕などはマーク・トウェインの言葉として何度引用してきたか分からない。

◆「国富論」などを著し、経済学の父とされるアダム・スミスは「神の見えざる手」で有名だ。「神の見えざる手」とは、個人個人が私利私欲で勝手な行動をとっても、結局は神の見えざる手によって社会全体の利益になるという考え方。レッセフェール(=自由放任主義的)経済、市場万能論の原点のような考え方である。

◆しかし、実際にはアダム・スミスはこの言葉を3回しか使っていないという(トーマス・セドラチェク著『善と悪の経済学』)。アダム・スミスは「国富論」に先立ち、「道徳感情論」を著しており、そこでは「神の見えざる手」のような概念はほとんど出てこない。さらに言えば、原著に「神の」という記述はない。日本の経済学者が好んで使用し、今ではこの訳が一般的になっているそうだ。あえて正せば、「市場の見えざる手」だろう。

◆我々は深く考えたり、自分で調べたりせずに思い込みでものを言ってしまうことがよくある。卑近な例では日米の株価。連日、史上最高値更新を続けてきた米国株に対して、日本株のパフォーマンスは劣後しているような印象をもっていませんか?昨年末のNYダウ平均は2万3300ドル強。先週末の終値は2万8135ドルで約4800ドルの上昇だ。昨年末の日経平均は約2万円だった。先週末が2万4000円だから4000円上げたことになる。率に直すとどちらも、ちょうど20%の上昇である。