シミュレーションでは「持ち家有利」となりがちだが…

住宅資金は教育資金、老後資金と並んで「人生の三大支出」の1つといわれます。家計へのインパクトが大きいだけに、住まいを選ぶ際には購入するにせよ、賃貸にせよ、住居の形態やエリア、予算などを絞ったうえで合理的に判断していく必要があります。

とはいえ、近年は住宅ローン金利が歴史的な低水準を記録し、住宅市場には強い追い風が吹いています。とりわけ30~40代の“マイホーム適齢期”にさしかかった方にとっては、「ローン金利が安いうちに購入すべきか」、はたまた「このまま一生賃貸でいくか」は悩ましい選択となるでしょう。

ウェブサイトなどでよく見かけるのは、同じような物件を購入した場合とずっと賃貸し続けた場合、生涯でどれくらい住居費に差が出るかというシミュレーションです。折からの低金利に加えて、そもそもこうしたシミュレーションは住宅販売会社や金融機関など“願わくは買ってほしい”業者サイドから提供されていることが多いため、大半が「購入した方が有利」という結論に導かれています。

実際はどうなのかといえば、現在30~40代の方が人生のゴールを迎えるまでには半世紀近い時間があり、この変化の多い時代にそれだけ先を見通すことは不可能といわざるを得ません。

少子高齢化で日本の人口は既に減少に転じており、この先、賃貸市場が供給過多で大きく値下がりする可能性もないとはいえないでしょう。そうなれば、先のシミュレーションの数字は大きく変わってきます。

最終的には個々の経済状況や家族構成、就業形態、思い描く老後の暮らしなどに配慮したうえで総合的に判断するしかなく、そのためには購入した場合、賃貸を続けた場合のメリットやデメリットを理解しておくことが大切です。

居住性は持ち家、住み替えの自由度では賃貸に軍配

賃貸では家主の意向で少人数の世帯を対象とした物件が多く、エリアによっては、ファミリー向けは駅から遠い団地などに限定されがちです。しかし、購入するのであれば、戸建てはもちろんマンションも、部屋数の多い物件の選択肢が広がります。

また、一般的には分譲物件の方が賃貸用の物件よりも最新鋭のハイスペックな設備を備えています。持ち家であれば間取りやデザインなどを自在に変更することも可能で、結果として、居住性については持ち家の方が満足度は高くなるでしょう。

加えて、持ち家は“資産”になります。家賃をどれだけ払おうと借家が自分のものになることはありませんが、持ち家ならばいざというとき賃貸に出して家賃収入を得たり、場合によっては売却したりすることができるのです。

住宅ローンを払い終えてしまえば、住居費の負担もぐんと軽くなります。特にリタイアして年金生活に入った後、毎月の家賃を負担せずに済むメリットは大きいといえます。

これに対し、賃貸から持ち家に移った方がまず感じるデメリットは、ランニングコストの上昇ではないでしょうか。それまで払ってきた家賃をベースに住宅ローンの毎月の返済額を設定するケースが多いと思いますが、持ち家だと他に固定資産税や、マンションであれば管理費や修繕積立金などもかかってきます。給湯器など備え付けの設備が壊れたときも自腹で修理をしなければなりません。

購入時の頭金や諸費用の負担も、賃貸物件の敷金や礼金の比ではありません。変動金利型の住宅ローンを組んだ場合は、将来的な金利上昇リスクも抱えることになります。

さらに、いったんマイホームを購入してしまうと簡単に引っ越しができなくなります。想定外の転勤や進学により、遠距離通勤・通学を強いられる可能性もあるのです。

その点、賃貸であれば気軽に引っ越せますから、ライフスタイルの変化に応じて住み替えもしやすいですし、近隣住民とのトラブルも転居によって解決できる可能性があります。

賃貸の家賃は年金世代にとって負担となることも

賃貸のメリットは持ち家のデメリットの裏返しともいえます。固定資産税やマンションの管理費、修繕積立金などを払う必要はありませんし、住宅設備が壊れた際の修理代は基本的に家主負担となります。

地震や集中豪雨などの被害に遭ったとき、再建費用を負担する必要がない点もある意味、気は楽かもしれません。数千万円の住宅ローンを抱え、長期に渡って返済を続けることに強いプレッシャーを感じる方なら、毎月の家賃負担はあっても、賃貸暮らしの方が心穏やかでいられるでしょう。

とはいえ一生賃貸を選択した場合、大きく2つのデメリットがあります。

1つは、当たり前ですが一生家賃を払い続けなければならないことです。現役時代は苦にならなかった家賃が、年金暮らしに入った途端、負担に感じるようになったという方は少なくありません。

老後資金2,000万円不足問題の契機となった報告書に取り上げられた高齢無職世帯のケース(調査による平均値)では、毎月の実支出26万3718円のうち住居費は1万3656円に過ぎません。今の60代は持ち家比率が高く平均住居費が抑えられた形で、一生賃貸と考えるなら2,000万円に加えて家賃に当てるお金も別途確保しておく必要があるでしょう。

もう1つは、高齢になると更新や新規の入居を断られる可能性が高くなり、物件の選択肢が限定されてしまうことです。さらに、高齢者が借り主だと家賃保証会社に加えて連帯保証人を要求されるケースが多く、単身者や子どもがいない方は連帯保証人探しに苦労することになります。

持ち家か、賃貸か。一長一短でどちらが有利と言い切れない状況ゆえ、この永遠の論争に終止符は打たれないのでしょう。ご自身や家族の希望やライフスタイル、さらに経済状態などを踏まえつつ、“合理的な選択”をしたいものです。