為替市場で第4位の取引量を誇るポンド

第二次世界大戦前まで、世界の基軸通貨として機能していたのが英国の通貨ポンドです。

英国はインフレ基調が強い傾向にあったため、1980年代には政策金利が17%もあり、高金利通貨としても知られていました。しかし、現在の政策金利は0.75%(2019年7月現在)と米国よりも政策金利が低く、もはやポンドは高金利通貨ではありません。

基軸通貨の地位転落からは既に随分経ちますが、現在の為替市場でポンドは、米ドル、ユーロ、日本円に次いで第4位の取引量を誇っています。

ポンドはボラティリティが高い(価格変動が大きい)ことで知られ、別名「じゃじゃ馬通貨」「殺人通貨」と呼ばれることもあります。

ポンド相場に影響を与えるキーワード

ポンドの政策金利

英国の金利政策は、中央銀行であるイングランド銀行(BOE : Bank of England)が決定します。その責務を担う具体的な組織がMPC(Monetary Policy Committee)と呼ばれる金融政策委員会で、原則として毎月上旬の水曜日と木曜日に開催されます。結果は木曜日の会合後に発表され、議事要旨も即時に公表されます。

BOEは2017年11月、それまでの政策金利0.25%を0.5%に引き上げました。2018年8月にさらに0.25%の利上げを実施、現在のポンドの政策金利は0.75%まで上昇しています。とはいえ、1%に満たない政策金利となっており、米国の政策金利をも下回っています。

スーパーサーズデー

四半期に一度、イングランド銀行はインフレレポート(物価報告)を公表します。MPC開催に合わせて、金融政策発表、議事要旨公表と同時にインフレレポートを公表し、中央銀行総裁が記者会見を行うスペシャルな日を「スーパーサーズデー」と呼んでいます。この日は経済見通しなど公表される情報が多いため、ポンド相場が大きく動く日として注目度が高まります。

ブレグジットの行方

2016年6月、英国民は国民投票で「EU(欧州連合)からの離脱(ブレグジット)」を選択しました。これを受けて、英国政府は翌2017年にEUに対して正式に離脱を通告したのですが、まだ離脱を巡る条件交渉がまとまっていません。

2018年12月にメイ元首相率いる内閣とEUは離脱手続きについて合意したものの、メイ元首相がEUと決めたブレグジット案では合意が難しいということで、英国議会がこれを不服として承認しませんでした。メイ元首相は2019年6月に党首を辞任し、次期党首に誰がなるのかが足下の焦点となっています(7月22日に最後の投票が終了し、週内には次期党首と新首相が決定する予定です)。

EUは英議会の混乱からブレグジット期限を2019年10月31日まで延長しましたが、メイ元首相との間で合意したブレグジット案の修正には応じない姿勢を明らかにしており、「ノーディールブレグジット(合意なき離脱)」のリスクが高まっています。

EUとの間で離脱条件の合意が得られないまま離脱期限を迎えることとなれば、混乱は必至。これが通貨ポンドの上値を抑え続けています。

スコットランド独立運動

英国はイングランドを中心とした連合王国(United Kingdom)ですが、1707年の合併後も、スコットランドでは独立運動が続けられてきました。

2011年に行われたスコットランド議会選挙で独立派が大勝し、2014年9月には独立を問う住民投票が行われましたが、この時は残留派がかろうじて勝利しています。

今後もスコットランドの独立運動はポンドの売り材料となる可能性があります。

じゃじゃ馬通貨ポンド、価格が動きやすい時間帯

前述のとおり、「じゃじゃ馬通貨」「殺人通貨」と呼ばれるポンドはボラティリティが高い(価格変動が大きい)ことで知られています。

米ドル/円相場のレートと比較すると英ポンド/円はレートの水準が高いため、変動幅が大きくなるのは自然なことですが、米ドル/円を取引する感覚で英ポンド/円の取引を始めると値動きの大きさに驚くこととなります。そのようなこともあり、取引量を大きくしないなどリスク管理がより重要となります。

ポンドは英国の通貨ですので、ロンドンタイムと言われる欧州時間、すなわち日本時間の15時~21時くらい(※1)に大きく動く特徴があります。英国の雇用統計や消費者物価指数など、政策金利を占う重要指標がこの時間帯に発表されることにも関係しています。ブレグジットを巡る報道も欧州時間以降に出てくることが多いため、ポンドの値動きが激しくなります。

(※1)為替が大きく動く時間帯は「FX取引時間帯:株式市場と為替市場の違い」を参照

実は産油国!?原油価格に連動することも

英国は北海油田を抱えています。現在、英国は原油の輸入国ですが、それでも石油製品は英国の主要輸出製品であり、英国のGDPの10%はエネルギー製品が占めているとされています。ブリティッシュ・ペトロリアムやロイヤル・ダッチ・シェルなどの石油メジャーが有名ですね。

北海油田の利益が英国の税収の10%前後に達した1980年代に、ポンドは「ペトロポンド」「ペトロカレンシー」と呼ばれていました。

ペトロカレンシーとは産油国通貨を意味します。原油価格が英国経済に与える影響は小さくないということですが、足下ではブレグジット動向の英国経済、ひいてはポンドに及ぼす影響の方が甚大であるため、原油価格による影響はあまり強くないようです。