みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。ビッグイベントであった参議院選挙は与党の勝利で終わりました。ただ、この結果はかなり事前の世論調査で指摘されていたこともあり、株式市場としては「材料出尽くし」と受け止められることでしょう。

むしろ、この後の対米貿易交渉の再開、10月に控える消費増税といった懸念材料が今後は徐々にクローズアップされてくるのではないでしょうか。株式市場は選挙まで比較的堅調な推移となりましたが、その後の流れは要注意だと筆者は考えています。

極めて限定的な文字数で情報を正確に伝える「四季報文学」

さて「アナリストが解説、会社四季報データ」の基礎編第3弾として、今回は「会社動向」を取り上げましょう。

会社動向欄は、書籍版の会社四季報では社名を含む「会社概要」のすぐ左隣りに配置されている区画です。前回の会社概要欄と同様、ここでも文字数は極めて限定的なのですが、やはり内容がきっしり詰まっていることに変わりはありません。

【図表1】会社四季報の誌面例
出所:マネックス証券作成

筆者は会社四季報を読み込むようになってからもう長いですが、よくこれだけの小さいスペースにここまで情報(あるいはキーワード)を散りばめられるものだと毎回感心することしきりです。

また、この会社四季報の文章には独特のスタイルがあることも面白いところです。一般にはなじみの薄い書き方なので、最初はちょっと違和感を覚えるかもしれませんが、慣れてくるとこの表現はとても読みやすいものがあります。

このスタイルでは、文章はだ・である調とし、極力短文を旨とする、主語述語を明確にする、できる限り体言止めを使用する、接続詞は使用せずに接続助詞を多用する、などといった特徴があります。筆者はこれを「四季報文学」と密かに(笑)命名しているのですが、証券会社でも、中でもモノを書く部署ではこういった修辞学を徹底的に叩き込まれます(少なくとも、筆者が日系証券に在籍していた頃はそうでした)。

この書き方が重宝されるのは、とにかく短い文章・文字数で情報を短時間で正確に伝えるのに適しているからです。長文になると、その分説明が長くなり、しっかり読み込まないと主語が何なのかがわからなくなるリスクがあります。

短文にして一文一文の結論を明確にさせることで、ざっと読んでも誤解が生じ難いようにしているのです。端的には、斜め読みでもきちんと情報が正確に伝わるような書き方と言えるでしょう。

時に会社側と異なる見解を示す「配当の増減予想や業績見通し修正」

この会社動向欄では通常2つのポイントが挙げられています。重要なのは、このポイントは全て会社四季報を発刊する東洋経済社の記者が自身の取材に基づいて、記者の責任でこの記事をまとめている点です。したがって、時として会社側が公に発表していない内容でも、会社四季報では大胆な分析や予測が記載されることが少なからずあります。

具体的には、配当の増減予想や業績見通し修正などはその好例です。時に会社側とは全く異なる見解が示されることもありますが、多くは会社側の公式発表を先取りする形で企業動向が示されているのです。まさに、会社発表・見解に対する第三者的な目線ならではの内容が会社四季報では記載されているのです。

本コラム1回目の「なぜ「会社四季報」が株式投資に必要なのか」で、会社四季報を読む理由を「みんなが読んでいる」と書きましたが、こういった(会社発表よりも)ビビットな情報・見解をみんなが読んでいるのです。こういった情報が株式投資に役立つことは明らかでしょう。

記者の高い取材力による「経営課題・経営計画への言及」

会社概要欄に記載される2つのポイントは、1つは業績動向であることが多く、もう1つは何がしかの経営課題・経営計画への言及なのが一般的です。この経営課題・経営計画への言及というのも、その時点で緊急度の高い論点や株式市場における注目テーマが提示されるケースが多く、実に多彩です。

筆者が思いもつかなかった視点の経営課題が言及されたこともあり、記者の取材力に舌を巻いたことがあります。調べようとしている企業のアウトラインを知るのが前回のコラムで紹介した「会社概要」だとすれば、企業の今と直近の見方を端的に知るのがこの「会社動向」と言えるでしょう。

そして筆者は、時間がある時に会社四季報のページを適当に開いて、全く無作為に会社動向欄を読むこともよくあります。会社概要欄のチェックは、まず調べたい企業が先に決まっており、そのアウトラインを理解するきっかけとするのが基本です。

会社動向欄の乱読が興味深い銘柄の発掘につながる

一方、会社動向欄はアトランダムな1つの解説として読むことができるため、この動向欄から企業に興味を持つという流れも成立するのです。株式投資をしていくうえで興味深い銘柄の発掘は常に不可欠ですが、その発掘のきっかけにはこの会社動向欄の乱読が非常に有効なのです。

書籍版はとても分厚いですから、ペラペラとページをめくるだけで全く知ることのなかった企業にほぼ確実に邂逅することができます。実際、筆者がそこから投資対象企業を見つけ出した例も少なくありません。会社動向欄は、本格的な調査の開始に向けての重要な入口と位置付けられるのです。