多くの家計を見てきて感じるのですが、資産形成ができている、もしくはできていくだろうと思う人には、やはり特徴があります。家計相談をしていると、それに気付かされます。

それは「今を見ているか」ということです。どういうこと?と思われるかもしれません。あるいは、当たり前のことだと思うかもしれません。ここで言う「今」というのは、「現状の家計」のこと。自分の現状の家計をきちんと見て、把握しているかということです。

資産形成をしているけれど、上手くいかない人というのは、今を見ることをおろそかにしているのに、将来の資産ができていないことだけにを気にして慌てふためきながら、とりあえずの資産形成をしています。

将来を見ることは、間違っていません。むしろ、良いことだと思います。ですが、今を見ずして将来を見るのは十分とは言えません。現状の家計をしっかりとみて、改善すべきところは改善し、将来につなげていく。つまり、理想的には、今を見ながら将来を見るというバランス感を保っていく、それが確実な投資につながるということなのです。

例えば、Aさんは、「節税効果がすごいらしいよ」「老後資金が増やせるよ」など、良い部分の話を聞いただけで、iDeCo(個人型確定拠出年金)を始めました。ただ、家計を省みず単に良いと聞いたから始めただけなので、家計のやりくりがうまくいきません。iDeCoを始めるにあたり、節約はしていません。やりくりも考えませんでした。今の状況がiDeCoをはじめるのにベターだとは言えなかったのです。

実際の生活では教育費もある上に、さらに子どもに習い事などを増やしてやらせたいと考えている状況。iDeCoの掛け金を捻出できるようなゆとりはなかったのです。もし、貯蓄が十分あればそれをiDeCoに回していくということも考え方としてはあったでしょうが、それすらもありません。全ては、現状をよく理解しておらず、うまい話に飛びつくかのように、お得に見えることを始めてしまった結果、お得になるはずのものに首を絞められていってしまうのです。iDeCoは原則60歳になるまでやめることができません。そういったことすら念頭になかったのです。これでは本末転倒です。

Aさんのような例は、実は珍しくないのです。とりあえず、いま良いと言われているものは、よく分からないけれどやってみる、とりあえず税制優遇を使ってみよう、そういう考えで始める人は多いのです。結果、家計がぎりぎりになるので、なんとかクレジットカードで家計をやりくり、なんていうのもよくあることです。これは、つまり借金して投資をしている状況でもあるのです。借金はしなくとも、ボーナスを回して、貯蓄できる金額を削ってまで調整をしながら、非課税制度を利用したがる人もいます。

貯蓄には順番があって、毎月の生活費と、万が一の時の生活防衛資金として、最低でも毎月かかる生活費の7.5か月ほどを準備しておくことが基本先決です。そのほかに、教育費やマイカー資金など必要な資金があればそれも準備し、それができてから投資などで増やすことを考えていくということが順当です。

ですがそこを飛ばし、お金を貯めたいと思っているのに、なかなか貯まらない状況への不満や、やれば貯められるという変な自信から、早く投資を始めることが「お金が貯められる最良の策」と思い込んでしまうと、将来的な資金作りを失敗しがちなのです。

なんども言いますが、強い投資をしている人は、しっかりと現状の家計を見ています。投資をする、非課税投資制度などのお得な制度をきちんと活用する、そのために家計のコストカットを意識しているのです。それはつまり、投資などに充てる「タネ銭」を作ることを意識し、行動して実績を作って、それを投資に充てているということなのです。

皆さんも、いろいろやりくりしながら投資をしているのかもしれません。ですが、今回の私の話を知り、「今」を見ることがきちんとできていないと思った人がいたら、まずはそこから始めてください。当たり前に払っている支出で無駄がない状態であるといえるのは、多くの家計をみて来た者の立場からいうと、十分ではない、まだ少ないと私は感じています。

「我が家はいくらの収入があり、何にいくら使って暮らしているのか。そこから投資をするには、いくら支出を減らすことができればよいのか。支出を減らすためにできる節約は何か」。

そう考えていくと、行動が少しずつ変わります。変わりやすくなるといったほうが正確にかもしれません。気が付くことがあり、やり方を変えたほうがよいと思うことができれば、自然とそうなるように行動が変わっていくということが多いのです。

これをお読みいただいている皆さんも、今を見ながら、将来のしっかりとした資産形成を目指してください。そうすることが、強い家計を作り、強い投資ができるコツなのです。

コラム執筆:横山光昭(よこやま・みつあき)

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