昨日(9日)、ドル/円は一時的にも114.20円まで下押す場面を垣間見ました。前日(8日)の欧米時間に、欧州の銀行株が軒並み大幅安となったことや米国の石油・天然ガス開発大手、チェサピーク・エナジーが破産法の適用を予定しているとの観測が強まったことなどで、また新たなリスク回避のテーマに火がついたことが市場の円買いに拍車をかけ、日本株が大幅に下落したことなどが原因になっているとされます。

今週は中国が春節を迎えることに伴い上海市場が週末まで、香港市場も本日(10日)まで休場となり、しばらく中国リスクから目線が離れることから、多少は市場のリスク回避姿勢も緩むのではないかと見られていたわけですが、市場の疑心暗鬼は少しでもネガティブな材料を探すべく世界を見渡すような格好となってしまっています。こうした状況下にあっては、よほど衝撃的な材料でも飛び出してこない限り、リスク回避相場のアク抜けには行きつかないと見る向きも少なくはなく、今しばらくは心落ち着かない状況が続くものと覚悟しておかねばならないでしょう。

ついに115円を割り込む流れとなったドル/円については、本欄の1月20日更新分において、当面の下値メドを114円程度の水準と想定しています。あらためて検証してみますと、まずは3波構成の「基本N波動」をベースとして予想される到達水準の目安を「N計算値」として弾き出した結果が114.02円という値になります。これは、ドル/円の昨年6月高値と8月安値、11月高値を元にした計算値です。

また、2011年10月に記録した過去のドル/円の最安値(=75円台)から昨年6月高値(=125.85円)までの大幅な上昇幅に対する23.6%押しというのも、大よそ114円近辺の水準になります。周知のとおり、ここに登場する「23.6」という数値はテクニカル分析によく用いられる「フィボナッチ比率」の1つであり、重要な節目として意識されることが多いと考えられているものです。

さらに、昨年6月に125.85円の高値をつけた時点から中期的な「下降チャネル」が形成されているとして、その下辺(昨年6月高値と11月高値が結ぶラインとそれに平行して8月安値を通るライン)が現在114円近辺に位置していることも確認しておきたいところです。あらためて下図を見てもわかるように、ドル/円の値動きは週足「雲」や31週・62週移動平均線など、その時々の重要な節目を意識しやすいものです。つまり、少し長い目でもう一段の下値があるとしても、とりあえず114円近辺というのは一旦下げ渋りやすくなる水準と考えていいのではないかと思われるのです。

20160210_tajima_graph.jpg

仮に114円近辺で一旦下げ渋り、とりあえずは115円台を回復して一定の戻りを試す展開となった場合には、大まかにまず116円、そして117円あたりまでの戻りはあっていいものと思われます。それは、一つに本日(10日)予定されているイエレンFRB議長による議会証言次第でもあり、当然、大いに注目しておきたいところと考えます。

ただし、あらためてドル/円の週足に注目しますと、現在は一目均衡表の週足「雲」下限が114.70円近辺に位置していることがわかります。週足ですから今週末の時点でドル/円が位置している水準というのがより重要であるわけですが、仮に週末時点で週足「雲」下限を下抜けた状態となった場合には、そこからの下値リスクにやや警戒を強めなければならなくなるものと思われます。なにしろ、ドル/円が週足「雲」下限より下方に位置するようになるのは2012年11月初旬以来のことなのです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役