前回のコラムでは、オンチェーン金融には、既存の金融システムをオンチェーンへ移していく「Finance → Onchain」と、オンチェーン上に生まれた市場が金融へと領域を広げる「Onchain → Finance」という二つの流れがあると整理しました。では、その先で私たちの投資体験はどう変わるのでしょうか。

現在、私たちの資産は金融機関ごとに分かれています。銀行口座には預金、証券口座には株式や投資信託、暗号資産交換業者の口座にはビットコインなどの暗号資産があります。取引する資産が増えるほど口座やアプリも増え、自分がどの機関に何をどれだけ保有しているのかを把握するだけでも手間がかかります。

オンチェーン金融では、こうした体験が変わる可能性があります。銀行、証券、暗号資産の複数のアプリを行き来することなく、一つのUIから自分の資産全体を把握し、管理できるようになります。しかし、変わるのは「管理する」体験だけではありません。資産の「使い方」も変わります。

例えば、1000万円分のビットコインを保有する投資家が、新たに株式を買いたいとします。現状であれば、別に資金を用意するか、ビットコインを売却して円などに換え、証券口座へ資金を移してから株式を買うことになります。

資産と金融サービスがオンチェーン上でつながれば、この流れは変わります。ビットコインを売却して株式へ投資するまでを一連の流れとして処理したり、ビットコインを売らずに担保として資金を借り、その資金で株式を買ったりできます。株式から受け取った配当や売却代金を返済に充てたり、そのまま別の資産へ再投資したりすることも可能になります。

取引の時間やスピードも変わります。現在の金融市場には取引時間があり、株式などは売買が成立しても、実際に資金や資産の受け渡しが完了するまでに時間がかかります。オンチェーン市場は原則として24時間365日稼働しているため、市場が開くのを待つ必要がありません。さらに、取引と決済を一体で処理できれば、売買から資金・資産の受け渡しまでの時間も大幅に短縮できます。

こうした取引体験は、すべてが遠い未来の話というわけではありません。オンチェーン市場では、暗号資産に加えて株式や債券などに連動するRWA(Real World Asset)トークンも広がり、一つのウォレットからさまざまな資産を管理・取引できる環境が生まれています。分散型金融(DeFi)では、保有資産を担保にステーブルコインを借り、そのまま運用したり、ETHとSOLのように本来は異なるブロックチェーン上にある資産を一つの操作で交換したりすることも可能になっています。

つまり、異なる資産や金融サービスを一連の取引としてつなげるという点では、オンチェーン側が一足先に新しい投資体験を実現しています。

この一体的な取引を支えているのが、資産と取引のルールを同じ基盤上に置き、プログラムで自動処理できるオンチェーンの特徴です。異なる資産やサービスをまたいで処理を組み合わせやすく、例えば、利払いや配当の頻度を細かくしたり、受け取った収益を自動で再投資したりと、一連の取引を共通のレール上で自動化できます。将来的にはAIによる投資判断と組み合わせることで、資産管理や運用の自動化がさらに進む可能性もあります。

では、オンチェーンで先行するこうした取引体験を、そのまま既存金融にも広げればよいのでしょうか。話はそう単純ではありません。銀行や証券会社を中心とする既存金融には、本人確認や不正取引の防止、資産の保全、取引の公正性など、長い時間をかけて築かれてきた投資家保護の仕組みがあります。一方、オープンなオンチェーン市場ではこうした仕組みが十分でない場合もあり、利便性と引き換えに、投資家自身が負わなければならないリスクもあります。

だからこそ、目指す先はDeFiをそのまま既存金融に置き換えることではありません。既存金融が培ってきた信頼性や投資家保護を維持しながら、オンチェーンで先行する利便性を取り込んでいくことです。現在は各社に分かれている資金決済や資産管理、本人確認などをオンチェーン基盤を通じて連携させ、両者の強みを組み合わせることが鍵になります。

銀行、証券会社、暗号資産交換業者といった垣根を意識せず、自分が持つ資産を一つのまとまりとして管理し、必要なときに必要な形で使う。オンチェーン金融の未来では、そんな「いつでも、すぐに、つながる」投資体験が当たり前になるかもしれません。