小室哲哉・中谷彰宏著『プロデューサーは次を作る――ビジネス成功22の方程式』を読みました。音楽プロデューサーとビジネス書作家が交互に語るエッセイ形式の一冊ですが、その中で小室哲哉さんの語る内容が、スタートアップの世界と驚くほど重なっていると感じました。

スタートアップの創業期、起業家はあらゆる役割を自分で担います。営業も、開発も、経理も、採用も。余裕がないからそうせざるを得ないのですが、その過程で、自分のビジネスのあらゆるディテールを肌感覚で把握することになります。この「ビジネスに対する解像度の高さ」こそが、スタートアップを成功に導く鍵だと私は考えています。

解像度が低い起業家は、意思決定の精度が落ちます。顧客の声を数字でしか捉えられず、プロダクトの仕様を他人任せにし、市場の変化を肌で感じることができません。こうした状態では、どこかで致命的な判断ミスを犯す確率が高くなります。

小室さんは音楽制作において、作曲・編曲・レコーディング・ミキシングのすべてに自ら関わることで、楽曲の隅々まで把握していたそうです。だからこそ、時代の空気を捉えた楽曲を次々と世に送り出すことができたのでしょう。一つひとつのパートの音色やリズムの微細なニュアンスまで理解しているからこそ、全体として最適な判断ができるのです。

これはまさに、起業家が自ら手を動かすことで得られる「解像度」と同じです。プロデュースという行為の本質は、全体を俯瞰しつつ、細部にまで意識を行き届かせることにあります。

もちろん、事業が成長すれば、すべてを自分でやり続けることは不可能になります。組織を作り、権限を委譲し、仕組みで回すフェーズへと移行していきます。しかし、一度高めた解像度は、委譲した後も判断基準として機能し続けます。細部を知っている人間だけが、報告の裏にある本質を見抜き、正しい問いを投げかけることができるからです。

逆に言えば、最初から解像度を高める努力を怠った人は、どれだけ優秀なチームを集めても、判断の軸を持つことができません。何が良くて何が悪いのか、自分の中に基準がないからです。

解像度を高める。それが、プロデューサーであれ起業家であれ、優れた仕事をする人に共通する原則だと私は思います。